こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

グレート・ビューティー/追憶のローマ

otello2014-08-26

グレート・ビューティー/追憶のローマ

監督 パオロ・ソレンティーノ
出演 トニ・セルヴィッロ/カルロ・ヴェルドーネ/ザブリナ・フェリッリ/ファニー・アルダン
ナンバー 196
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

夜な夜な繰り返される狂乱の宴、酒に浸り踊り狂う人々は参加するのが義務であるかのごとく、退屈していても楽しげなフリをする。俗物の王になりたかった男は願いを叶え、君臨する。永遠の都・ローマ、世界の中心から遠くなってしまったが、3000年の時間の堆積の上に築かれた退廃の美学はいまだ有閑階級を魅了してやまず、虚栄を暴かぬ不文律の元、決して人間の本質には踏み込まない。言語とイメージ、過去と記憶、思考と幻覚、あらゆる感覚を駆使しても見えない人生の真実、そのなかでセックスだけが唯一“生”を実感できる行為。映画は老いた元作家の日常を通じ、愛こそが命の源であると訴える。

かつて人気作家だったジェップは夜ごとのパーティに身をやつす日々。ある日、亡くなった初恋の女性が、ずっと自分を思い続けていたと知り、生き方を見直そうとする。

“激突パフォーマー”へのインタビューで、彼女の内なる「鼓動」を詩的な言葉での理解を試みるジェップ。心に芽生えた衝動を陳腐な表現に置き換えられるのを拒むパフォーマー。このエピソードに暗喩されるように、ジェップの暮らしは刺激には満ちているが、それがはたして彼にいかなる影響を及ぼしているのかは定かではない。晩年を迎え死の影が近づいているのは知っている。それでも、いまさら他人から学ぶことはないという思いと、もう一度愛についての考察を小説にしようという意欲が葛藤している。ジェップの内面の変化をもっと観察したかったが、散文的なエピソードの羅列はそれを許してくれなかった。ローマの土地勘と町の歴史に対する薀蓄があれば違った味わい方ができたのかもしれないが。。。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

深く刻まれた皺、ほとんど歯のない口、草の根しか食べず、床で眠るという100歳を超えたカトリックの聖女が衝撃的。ジェップがローマの堕落した精神のあだ花ならば、聖女は清らかな魂の象徴。バルコニーで羽を休める渡り鳥にすら慈愛を持って接する彼女の姿が、ジェップの人生に、いやこの作品に救いをもたらしていた。

オススメ度 ★★*

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