こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ミンヨン 倍音の法則

otello2014-10-18

ミンヨン 倍音の法則

監督 佐々木昭一郎
出演 ミンヨン/ユンヨン/武藤英明/旦部辰則/高原勇大
ナンバー 181
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

極端なクローズアップの多用、突然始まる音楽と歌、脈絡のないシーンとシークエンスの羅列、自在に交差する時間と空間と人物。それはヒロインの脳裏に浮かんだうたかたの夢。混在する彼女の記憶と妄想が煮詰められたうえで抽出されたイメージの数々からは、テーマや教訓を見出そうとしても徒労に終わるだけ、理解しようとしても途方に暮れるだけ。まして見る側の想像力は何の役にも立たない。カメラは夢想癖のある韓国人女子大生の日常に密着しレム睡眠を覗きこみ、国籍や言語を超えた友情と連帯、戦争に抑圧されても折れない自由な魂の叫び、失われていく伝統技術の保存を訴えている。ような気がするが、実はよくわからなかった。ただ、モーツァルトの旋律には人に何らかのインスピレーションや情動を注ぎ行動を起こさせる力があり、長く口ずさまれてきた歌には精神を奮い立たせ元気づける作用があるのは確認できたが。。。

ソウルの女子大生・ミンヨンは、日英朝3か国語を操る能力を生かして通訳や司会をしている。翻訳の仕事で日本に渡ったミンヨンは、祖母の友人の日本人女性・すえ子の住んでいた家を見つける。

ミンヨンは素人らしく話し方が平板で、いつも笑みを絶やさず、心を解放するかのように楽しげに歌うとき以外は感情表現に乏しい。他の出演者もすべて演技経験はなく、映像には通常の劇映画にはない奇妙に間延びした、それでいてハプニングが起きるのではという緊張感に満ちている。現代の日本を舞台にしたエピソードはほとんどがハンディカメラによるロケ、特に渋谷のスクランブル交差点に立つミンヨンの周囲をカメラが周回する場面は恐ろしく滑らかな動きで、カメラマンのテクニックの高さがうかがえる。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

やがて、「夢の中でこそ過去と歴史に触ることができる」というミンヨンの信念通り、感性豊かな彼女の脳内現象はこの作品の監督・佐々木昭一郎の記憶にまで入り込み自分のものとして取り込んでいく。一切の説明を省き己の描きたいことだけを撮る、ある意味すごい映画だった。

オススメ度 ★★

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