こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

little forest 冬/春

otello2014-12-19

little forest 冬/春

監督 森淳一
出演 橋本愛/三浦貴大/松岡茉優/温水洋一/桐島かれん
ナンバー 288
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

深い雪に閉ざされた冬、コンビニもスーパーもない山奥の集落では食べ物は保存のきくものしかない。夏や秋のうちに収穫した野菜を干し、漬け、埋め、発酵させ、必要に応じてその都度手を加える。小さな一軒家に住むヒロインはそこで“食”と正面から向き合って己の生き方を模索する。正解がないのは分かっている、でもより良い答えは見つけられるはず。作物を育て、山菜を摘み、魚を釣り、鶏を絞める。毎年同じことの繰り返しに思えてもやはりどこか去年とは違っている。“人生は円ではなくらせん”という母の言葉に象徴されるように、同じ場所を巡回しているようでも少しずつ高さや深さは変わっている。人はそうやって成長していくのだ。物語はそんな彼女のスローライフを通じて“生活の質”とは何かを問う。

ケーキを焼いたいち子は友人のキッコ、ユウタとクリスマスを祝う。ある日、キッコの愚痴に上から目線のアドバイスをしてケンカ、その後、ユウタにも何かから逃げていると言われてしまう。

いち子は日常にデジタル機器を持ち込まず、気分転換の息抜きと呼べるのは友人たちとのおしゃべり程度。起きているほとんどの時間を生きるための準備に費やしている。まるで自分を罰するかのごとき禁欲的な暮らしぶりは、失踪した母への贖罪なのか。それとも町に馴染めず戻ってきた反省なのか。だが、いち子は食材の調理法について語るのみ。あえて喜怒哀楽を抑え料理に没頭する姿は、濃い人間関係を結んだ身近な者に裏切られ傷つくのを極度に恐れている彼女の不安の裏返しに見えた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

映画は彼女の“きちんと調理してきちんと食べる”愛情には寄り添っても、母の思い出にはあくまでドライに接する。このあたりの割り切りのおかげで、かえっていち子の人物像に幅が出て彼女の過去に対する想像が膨らむ。帰ってきた彼女が神楽に興じるまなざしが、もうひとりではない彼女の自信をみなぎらせていた。

オススメ度 ★★★

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