監督 石井裕也
出演 妻夫木聡/亀梨和也/勝地涼/上地雄輔/佐藤浩市/高畑充希/池松壮亮/石田えり
ナンバー 298
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています
緩慢な三塁手の前にバントで球を転がし、出塁すると二盗三盗を決めて、内野ゴロで生還する。2014年夏の甲子園を沸かせた健大高崎の“機動破壊”を髣髴させる積極的な走塁で、ジャストミートなしで大柄なカナダ人チームから点をもぎ取る日本人チーム。パワーでは勝てない、球威に手が出ない、ならば走攻守のうち、走だけに特化する。その野球はまさにスピード重視の現代ベースボールの先駆けだ。物語は1930年代バンクーバーで旋風を起こした日本人チームの葛藤と活躍を描く。二世三世の時代になっても移民に対する差別は根強く、過酷な条件で働く日系労働者たち。巨大なオープンセットの街並みと人々のファッション、背景となる精緻なCGが当時の空気を濃密に再現する。
製材所従業員・レジーは日系人仲間と野球チームのメンバーとして退社後グランドで汗を流す日々。試合では白人チーム人にまったく歯が立たなかったが、あるときレジーはセーフティバントを成功させる。
その後もバント戦法で相手チームをかき回し連戦連勝、日本人街は歓声に包まれるが、すぐに恐慌や戦争の影が忍び寄ってくる。ところが、映画は野球をできる喜びよりも野球なんかやっていていいのかという後ろめたさに重心が傾き、一向に盛り上がらないまま低空飛行を続ける。仕事との両立、家族との対立など、登場人物の感情を丁寧に掬い取ってはいるが、それが足し算にならず散漫なまま放置されるのだ。野球こそ日系人の希望なのだから、そこに焦点を当てるべきだろう。何より、レジーがメンバーをまとめて引っ張るような“熱い男”でないのがこの作品の体温を下げていた。
◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆
また、宮崎あおいや本上まなみ、ユースケサンタマリアといったキャストは本筋とは関係なく、彼らが現れることで流れが断ち切られる上に上映時間が長くなってしまう。撮影にすごくカネがかかっているのはよくわかる。映像もしっとりと美しい。でも、作り手の熱意が感じられない。どうしちゃたんだ、石井裕也監督は。。。
オススメ度 ★★