こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ジミー、野を駆ける伝説

otello2015-01-20

ジミー、野を駆ける伝説 JIMMY'S HALL

監督 ケン・ローチ
出演 バリー・ウォード/シモーヌ・カービー/アンドリュー・スコット/ジム・ノートン/ブライアン・F・オバーン
ナンバー 14
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

一日中泥にまみれて働くばかりでは人間らしい生き方とは言えない。文学や芸術で見聞を広め、スポーツで体を動かし、隣人同士の連帯を深めてこそ豊かな生活。ところが、無産階級が集まると共産主義者のレッテルを貼られ取り締まりの対象となる。さらに大豪邸に住む貴族と、長年住み慣れた家を追い出される小作人間の圧倒的な経済格差。物語は、1932年アイルランド、地域の貧しい人々のための憩いの場を作り、権威や権力と戦った男の奮闘を追う。内乱のしこりと古い価値観に対して、人生を楽しむ権利を勝ち取ろうとする主人公の熱い気持ちが自由の尊さを象徴しているとともに、カトリック教会を中心とした昔ながらのコミュニティの危機感がリアルに再現されていた。

10年ぶりに米国から帰郷したジミーは、廃屋となった集会所の再建を若者たちから依頼される。だが、神父を始め地元の有力者たちはジャズやダンスに興じるジミーたちを快く思わない。弾圧が本格化すると、ジミーも仲間たちを鼓舞し始める。

ダンスパーティを見張り、教会で出席者の名を読み上げる神父。彼の表情に、当時の聖職者や有産階級がロシア革命に抱いていた恐怖が凝縮されていた。“持たざる民衆”がマルクス=レーニン思想に触れ、武装蜂起を計画するかもしれない。ささやかな交流の場ですら疑いの目でみられる息苦しさは、テロを警戒するあまりあらゆる人々の動向が監視される社会になってしまった現代にも通じるものがある。革命家などではなくただ母と静かに暮らしたかっただけ、そんなジミーをバリー・ウォードが飄々と演じ、映画はつらい現実の中にも希望を見出そうとする。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

やがて、先祖代々皆顔なじみという土地柄の苦悩が有力者たちの間で表出する。その間、リーダーに祭り上げられたジミーは警察に追われるが、警官も人情までは失っていないのか、彼の逃走劇はゲームのようなのどかさが漂っている。敗北してもなお笑顔を見せるジミーとの別れ、それもまた心地よかった。

オススメ度 ★★★

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