こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

さいはてにて

otello2015-01-22

さいはてにて やさしい香りと待ちながら

監督 チアン・ショウチョン
出演 永作博美/佐々木希/桜田ひより/保田盛凱清/臼田あさ美/イッセー尾形/永瀬正敏
ナンバー 12
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

客の来訪を拒むかのごとき険しい海沿いに建つ休業中の民宿で寝起きする家族。シングルマザーは半ば育児放棄、残された小学生の姉弟は健気に学校に通い辛い現実にさらされている。物語は彼らが暮らす海岸にカフェを開いたヒロインが、芳醇なコーヒーの香りで荒れた母子を癒していく姿を描く。幼いころ父を捨てた呵責から一人暮らしを続けているけれど、人間嫌いなわけじゃない。救いを求める者に手は差し伸べるが、必要以上には相手の事情に踏み込まない。依存するのもされるのはイヤ、とはいっても突き放したりしない。そんな彼女の周囲との微妙な距離感が、濃密さを避ける現代の人間関係を象徴している。

漁に出たまま行方不明になった父の船小屋をカフェに改装した岬は、眼前の民宿に住む有沙と翔太を店に招く。彼らは母・絵里子がときおり連れ込む怪しげな男を怖がっていた。

機関車トーマス”のような巨大な機械でコーヒー豆を焙煎する岬。丁寧に挽かれ一杯ずつ淹れられたコーヒーは家庭訪問で疲れた有沙の担任の心身をほぐす。その過程は、後悔しないように生きてきた岬の人生そのもの。父のたたひとつの思い出は船小屋で弾いてくれたギター、だから父との再会を信じて待っている。頭では“もう死んでいる”のは理解している、だが心は頑なに否定する。そのあたりの、理性と感情の矛盾した動きを、永作博美は抑制の効いた演技で表現する。父親不在の有沙たちの気持ちはわかる、それでも無条件で甘やかさない岬の厳しさは、甘ったるい「女性映画」とは一線を画していた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

やがて、絵里子の祖母や絵里子本人から父の記憶を聞かされた岬は、同じ漁船で遭難した漁師の家族を招き、知らなかった父の一面を教えてもらう。自分を愛してくれたのと同じくらいみんなからも慕われていた父。きっと父も家族と離れて辛かったはず。ゆったりと流れる時間の中、傷ついているからこそ他人に優しくなれるということを思い出させてくれる作品だった。

オススメ度 ★★*

↓公式サイト↓