こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

おみおくりの作法

otello2015-02-02

おみおくりの作法 STILL LIFE

監督 ウベルト・パゾリーニ
出演 エディ・マーサン/ジョアンヌ・フロガット/カレン・ドルーリー/
ナンバー 24
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

人知れず息を引き取った人々にも、その死を悼む人がいるはず。彼らもきっと、誰かを愛し誰かに愛され、何かに感謝し何かで感謝されていたにちがいない。寡黙な男は、そんな見知らぬ故人と丁寧に向き合い、少しでも安らかに旅立てるようにできる限りのことをする。死者に寄り添う彼の背中は、誰の一生でも決して無駄なものはないと語りかけているよう。哀しみ慈しむ視線は、それが仕事だからではなく己の使命と考えているから。ところが、効率を重んじる上司と後任者は遺灰をぞんざいに扱い、生前の彼らに関心も敬意も払わない。物語は解雇を言い渡された主人公が、最後の事案に奔走するする姿を描く。動きの計算された端整な構図が、厳粛な空気の中にもコミカルな味わいを醸し出す。

民生係のジョンは孤独死した市民の後始末をしているが、経費削減のあおりを受けてクビを宣告される。しかし、愛娘のアルバムを遺して逝ったビリーの案件だけは片付けようと知人をあたる。ビリーは毀誉褒貶の激しい人物だった。

暴力的で酒にだらしないけれど、女にもて友情を大切にする。服役経験もあったが憎めないところもある。何よりも、わが子の誕生から10歳くらいまでの写真を保存している。ジョンはビリーに興味を引かれ写真の娘・ケリーの消息を追う。きっと父親としても失格で、探し当てたケリーは戸惑いを隠せない。それでも、アルバムに込められたビリーの思いに、ケリーは自らの記憶を洗い直していく。いい思い出もあったのでは、と。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

ビリーの人物像が明らかになる過程で、ジョンがいかに職務に忠実で生真面目だったかも再現される。ほとんど表情を変えず喜怒哀楽をかみ殺すジョンもまた、自宅で突然死しても周囲に気づいてもらえない存在。ビリーの件で初めて積極的に他人と関わったのだろう、判で押したような彼の日常が急に動き出す。静かな人生もいい、だが生きている人間と感情を共有する機会が人生に彩りを添えるとこの作品は教えてくれる。

オススメ度 ★★★

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