こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

味園ユニバース

otello2015-02-19

味園ユニバース

監督 山下敦弘
出演 渋谷すばる/二階堂ふみ/鈴木紗理奈/川原克己/松岡依都美/
ナンバー 40
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

おうちを聞いても分からない、名前を聞いても分からない。だが、マイクを手にすると圧倒的な声量と抜群のテクニックで「古い日記」を朗唱する。虚ろな目には暴力と狂気を無理やり抑え込んだ哀しみが宿り、野良犬のような卑屈な態度で心を閉ざす。物語はそんな男がおっさんバンドのマネージャーを務める娘に拾われ、歌でアイデンティティを取り戻していく過程を描く。顔の傷と頭の打撲からヤバイ事情を抱えているのは確か、もしかしたらこのままの方がいいのかもしれない。居候暮らしにもなじんだ。“過去がないなら未来を作ればいい”という言葉に、生きる意欲もわいてきた。昭和歌謡と「味園」の妖しさに彩られた映像はよくも悪くも人間関係の深いつながりを予感させ、来るものは拒まず的な弛緩した空気が心地よい。

チンピラに殴られて逆行性健忘症になった男はカラオケスタジオのカスミに拾われ、ポチ男と名付けられる。ポチ男の声に可能性を見出したカスミは、主催するバンドのボーカルに彼を抜擢し、単独ライブの準備に入る。

様々な小物を目にするうちに少しずつ思い出していくポチ男は、徐々に自分が危ない人間であることに気づいていく。カスミも独自に彼の身元を調べるが、悪評しか耳に入らない。せっかく手に入れかけた安らげる日常をあきらめたくはないが、真実を知ってきちんと決着を着けたい思いも捨てられない。そのあたり、ポチ男は逡巡し葛藤するが、苦悩するほど考え込む思考力はない。深刻になりすぎない映画のスタンスが、逆にリアルに彼の感情を浮き彫りにしていた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

やがて、公演ポスターを見たかつてのチンピラ仲間がポチ男に接近、完全に記憶が回復したポチ男はまた半グレ生活に沈んでいく。それでも忘れられない歌手への情熱とカスミの優しさ。ほんのわずかだけれど“愛”を学んだポチ男を見守ってやりたくなった。それにしても、大阪では困りごとはとりあえず「ナイトスクープ」に相談しようとするのか、やっぱり。

オススメ度 ★★★*

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