こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

アルプス 天空の交響曲

otello2015-03-07

アルプス 天空の交響曲
Die Alpen - Unsere Berge von Oben

監督 ピーター・バーデーレ/セバスチャン・リンデマン
出演 小林聡美
ナンバー 52
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

かつては畏敬の念を持って頂きを見上げるだけだった。冒険者たちの挑戦を長く拒み続けていたが、道具の発達で征服された。そして、今や空撮用のカメラを手に入れ、さらなる高みから山々を見下ろす。映画はヘリコプターに取り付けられた専用カメラでアルプスの雄大な山並みを散文的にスケッチする。ほぼ垂直に切り立った奇岩、年々消失していく氷河、荒れた山肌と水量豊かな湖。一方で絶壁のわずかなスペースにたたずむ山小屋は、なぜこんなところに建てられたのかと思わせる芸術的なまでの建築技術を誇示したい人間の欲望を象徴しているようだ。だが、どれほど大きな峰々も、大規模な開発も、人々の営みも、上空から俯瞰した風景はスケール感が違い、まるで箱庭にしか見えない。荘厳とか壮大といった言葉よりも、むしろ地球と対比した場合の小ささが強調される。これこそが“神の視点”なのか。

ヨーロッパ大陸とアフリカ大陸がぶつかり隆起してできたアルプス山脈。19世紀以降リゾート化され、登山家たちの心を捕まえて離さない名峰の数々はカジュアル化し、スキー場と夏の避暑地としてにぎわっている。

当然天気のいい日にしかヘリを飛ばせない。ゆえにカメラがとらえたアルプスは穏やかな天候に恵まれた“表の顔”ばかり。突き抜ける青空と氷河期から解けずに残った氷雪、命の息吹に満ちた木々の緑と脆く崩れやすい無機質な岩肌などの天然の色彩が絶妙のコントラストをなし、地上からの映像では表現できない深い奥行と高低差を再現する。それは決して目くるめく浮遊感ではなく、重力から解放された精神が飛翔の自由を味わっている感覚だ。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

また、ルートヴィッヒの城や激しくUターンを繰り返す道路、渓谷を走る登山列車や空中散歩するロープウェイ、人造湖から先端を突き出す時計塔といった人工物は、人類がいかに不可能を可能にする努力を積み重ねてきたかを物語る。環境を保護しろなどと主張しない作り手の姿勢が、自然遺産も文化遺産も豊富なこの地域への惜しみない愛を感じさせてくれた。

オススメ度 ★★★

↓公式サイト↓