こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

セッション

otello2015-04-20

セッション Whiplash

監督 デイミアン・チャゼル
出演 マイルズ・テラー/J・K・シモンズ/ポール・ライザー/メリッサ・ブノワ
ナンバー 91
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

瞬きよりも速いスティックの動き、浴びせ続けられる罵声。一瞬の気の緩みも許さない緊迫感あふれる映像は圧倒的な感情の波となってスクリーンから押し寄せる。プロを養成する教育機関、そこでは飛び散る汗も滴る血もすべてを音楽への情熱に昇華して、限界を超えた高みを目指す者が生き残る。物語は厳しく指導する先生の下で、ジャズドラマー志望の青年が成長していく姿を描く。恋人を捨て、睡眠を削り、あらゆる犠牲をいとわずにドラムに没頭する主人公と、失敗を絶対に認めない教官。師弟愛など存在しない、憎しみにも似た恐怖と怒り、それ以上にプロの水準と心構えと誇りが徹底的に叩き込まれるのみ。愛も友情も、感傷も同情も必要ない、常に「昨日の自分」に勝とうとする者だけが、“アーティスト”と讃えらえるのだ。

NYの音楽院、ドラムを練習中のアンドリューはフレッチャーのクラスに誘われる。いきなり信じがたいほどの技量を求められたアンドリューは、与えられたチャンスをものにするために自らに猛特訓を課す。

秒単位の正確さで教室に現れ、常人の耳では判別できないわずかなテンポや音階のずれも聞き逃さない。叱責する言葉は悪意に満ち、椅子を投げることもある。精神的な弱さは脱落を意味し、心身共にタフな者にしか演奏を許さない。もはや恐るべき怪物にしか見えないフレッチャー、“good job”の一言が進歩を止めるという彼の信念に、アートを志す人間はいかに生きるべきかが凝縮されていた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

やがて学院を追放されたアンドリューは、偶然再会したフレッチャーにスカウトされる。それはアンドリューにとってもフレッチャーにとっても再起のチャンス。ステージで繰り広げられる壮絶な演奏は、ふたりの因縁が爆発する命がけのバトルだ。音楽に人生を捧げたはずのフレッチャーにもどす黒い思いが残っている、だがそれすら凌駕するアンドリューの魂の咆哮に、芸術の神髄を見た。

オススメ度 ★★★★

↓公式サイト↓