こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

インヒアレント・ヴァイス

otello2015-04-22

インヒアレント・ヴァイス INHERENT VICE

監督 ポール・トーマス・アンダーソン
出演 ホアキン・フェニックス/ジョシュ・ブローリン/オーウェン・ウィルソン/キャサリン・ウォーターストーン/リース・ウィザースプーン/ベニチオ・デル・トロ
ナンバー 93
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

寝ても覚めても抜けきらない不快な酩酊感、進んでも進んでも晴れない霧、バラバラのピースを組み立て完成させたパズルが暗示するのはさらなる混沌……。ダウナー系のドラッグを吸い、瞑想の中で幻覚を見る感覚を再現したような映像は不可解、明確な答えを求めても蜃気楼のごとく逃げていくだけだ。物語は、陰謀に巻き込まれそうになっている富豪の身辺調査を依頼された私立探偵が、裏社会の住人と彼らを表社会につなぐ人々に翻弄される姿を描く。ヒッピー、ネオナチ、風俗嬢、麻薬組織、暴力刑事、反戦運動、スパイetc。複雑に絡み合った利害と人間関係の底なし沼に足を取られていく主人公、そこには苦悩も葛藤もスリルもサスペンスもないが、ベトナム戦争に倦み権力や社会システムに背を向ける1970年当時の米国が抱える憂鬱が濃縮されている。

しがない事務所を構えるドックは、元恋人・シャスタの現在の愛人・ミッキーに関する情報を集めるため、バイカー集団に接触する。だが、殴られて昏倒、目覚めるとそばにあった死体との関連を捜査官のビッグフットに疑われる。

その後、ドックは釈放されるがミッキーは失踪、麻薬組織の密輸船・黄金の牙や同名の歯科医組合などがドックの前に現れては消える。さらに二重スパイを装うミュージシャンや殺し屋などが入り乱れ、ドックの初期の目的すらあいまいになっていく。どこを目指しているのか、次にどう転ぶのか、誰が味方なのか、背後で黒幕が糸を引いているのか、混迷を深める現実にドックはなす術もない。唯一、未練を残していたシャスタに“ご褒美”をもらうシーンが、ドックの精神が清明になる瞬間。価値観が逆転した70年という時代に生きる意味を象徴していた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

やがてドックは成り行きで大量のドラッグを手に入れるが、カネよりも価値のあるものと取り引きする。結局、何が起きて何が起きなかったのか? 茫洋とした頭で考えても仕方がない、ただ、ひとりの男を救ったことが、ドックにとっても救いになっていたに違いない。。。

オススメ度 ★★*

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