こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

皇帝のために

otello2015-05-08

皇帝のために

監督 パク・サンジュン
出演 イ・ミンギ/パク・ソンウン/イ・テイム/イ・ジェオン/パク・チヌ
ナンバー 106
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

時に脅えた野良犬のように、時に獲物を狙う野獣のように、そのまなざしは孤独と憤懣を湛え近寄る者すべてに敵意をむき出しにする。誰も頼れない、どこにも行くところがない。物語は、夢破れ自暴自棄になった若者が裏社会に転じ、のし上がっていく過程を描く。“金儲けに邪魔なものは同情”という親分の教え通り、返済を渋る男は容赦なく殴り、葬儀の香典まで奪っていく。そんな中、彼が欲したのは、愛と呼ぶにはあまりにも儚い、傷ついた心を癒してくれる束の間の安らぎ。だが、それを手に入れるためには日々命がけの競争に勝ち残らなければならない。義理も人情も廃れた韓国ヤクザ、信じられるのはカネと自分だけの状況で走り続ける主人公の背中が哀しい。

八百長で球界を追放されたファンは、高利貸しのサンハに拾われ盃を交わす。ファンはたちまち頭角を現し、サンハから賭博サイトの管理を任されまでになる。一方でナイトクラブの女・ヨンスに溺れていく。

湾岸地域に聳え立つ超高層ビルと開発を待つマリンリゾート。釜山の近代化を象徴する風景とは対照的に、サンハたちが身を置くのは欲望と裏切り・嘘と欺瞞が渦巻く汚れた世界。暴力の箍を外されたファンは生傷の痛みすら生きている証と感じている。そしてヨンスとのむさぼり合うかのごとき交情に希望を見出していく。ところが予想以上に結果を残すファンにサンハは危機感を覚え始める。“忠犬”のうちは可愛がられるが、出る杭になると打たれ、出すぎた杭は抜かれる。人間社会の縮図が激情を抑えたクールなトーンの映像に集約されていた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

やがて、サンハに嵌められて服役していたヤクザが出所、サンハらの前に立ちはだかる。血で血を洗う大乱闘にも銃器を使わず、手にするのはあくまで刃物とバットなのは、彼らなりのプライドなのか。その後明らかになる過去の因縁。そこには己の知恵と肉体と度胸を武器にサバイバルするファンの、運命に対する怒りが凝縮されていた。

オススメ度 ★★*

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