ホーンズ 容疑者と告白の角 HORNS
監督 アレクサンドル・アジャ
出演 ダニエル・ラドクリフ/ジュノー・テンプル/マックス・ミンゲラ/ジョー・アンダーソン/ヘザー・グラハム/デヴィッド・モース
ナンバー 108
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています
あんなに愛し合った彼女は殺されてしまった。身に覚えはない、だが彼の犯行ということになっている。何も信じられない、誰も信じてくれない。神を呪ってマリア像を破壊した男は、悪魔のしるしである二本の角を額に生やす。物語は、他人の心を見抜き告白させる能力を手に入れた主人公が独力で真犯人を探す過程を追う。笑顔の奥に潜む不満や嫉妬・エゴと欲望、普段口にしない本音を引き出していく行程は、彼にとって苦痛に満ちたものであると同時に恋人への思いを再確認する旅でもある。自制心を解かれた人々が意のままに振る舞う様は、むしろ幸福感にあふれている。そして信仰や道徳といった社会の建前がストレスの根源であり、自分自身に忠実な生き方こそが人間らしいと訴える。
恋人・メリンを惨殺され絶望のどん底でもがくイグは、彼女に対する殺人容疑で世間の注目を集めている。味方は親友で弁護士のリーだけ。そんな状況の中、イグは偽証をしたウエイトレスに嘘をついたと認めさせる。
イグはメリンから別れ話を切り出され、口論しているところを目撃されている。一方でイグの兄・テリーがメリンを連れ出した後に彼女が死体で見つかった事実が明らかになる。己を陥れた者たちへの復讐、いまやイグにとって角は運命を切り開くための武器となり、悪魔に魂を売ったはずがいつしか悪魔によって真実に導かれていく。その姿は、いつも十字架を首から下げていたメリンの悲惨な最期が暗示する、神の無力にも通じている。大切なのは見かけではないと、イグに憑りついた“それ”が証明していた。
◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆
やがて、真犯人にたどり着いたイグは償いをさせようとするが、沸騰する怒りと憎しみは彼を悪魔の外見に変えてしまう。ここでも“正義”を為すのは悪魔。もはや神による救済は愛した記憶の中にしか存在しない、正義であれ復讐であれ、あらゆる暴力は悪魔の仕業である。この作品の主張は、テロと混迷の21世紀を象徴していた。
オススメ度 ★★*