こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

天空の蜂

otello2015-06-06

天空の蜂

監督 堤幸彦
出演 江口洋介/本木雅弘/仲間由紀恵/綾野剛/柄本明/國村隼
ナンバー 131
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

パイロット不在の超大型輸送ヘリコプターを無線による遠隔操縦で離陸させ、その後はGPSと赤外線カメラの認識機能で自律飛行、重要建造物に墜落させようとする。2015年4月に社会問題になった出来事を先取りした内容は、不気味なリアリティで空への無警戒に警鐘を鳴らす。ドローンなら同じことがもっと簡単にできる、と。物語は日本中の原発停止を目論むテロリストと政府当局、巻き込まれたヘリ開発者の葛藤を描く。人質は稼働中の原発、テロリストは要求が通らなければ原発をヘリもろとも爆破すると脅迫する。迫りくるタイムリミット、ヘリに一人残された少年、追い詰められる実行犯、そして意外な主犯。映画は関わった様々な人物の視点で事件を俯瞰し、原発に頼り切った生活に浸る日本人に、“電気は人命より大切なのか”と問う。

テロリストに乗っ取られ、原発の800メートル上空でホバリング中のヘリには、ヘリ開発者・湯原の息子が乗っている。自衛隊員が決死の救出作戦を試みるが、息子はヘリから足を踏み外し落下してしまう。

実行犯の1人・雑賀は原発の清掃業務中に被爆した仲間を亡くしている。原発の技術者・三島もまた、息子がイジメで自殺に追い込まれた過去を持つ。暮らしを豊かにするはずの原発のために働いたのに理想と現実のギャップに気づき、糺さねばならないと行動を起こした人々の決意は間違っているのか。電気という国益・公共益のもと便利さの代償として使い捨てにされる命と、個人を圧殺する世間の空気。誰もが矢面に立ちたがらない。そんな中、湯原は息子のために初めて戦う決意をする。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

派手なアクションや息詰まる緊迫感は確かに少ない。それでも2時間20分近い上映時間を一気にたたみかけられたのは、エゴや世間体にしがみつく者やプライドが高く自己犠牲も厭わぬ者といった、主人公以外のキャラクターも丁寧に描写したからだろう。もちろん原発は、ある程度の軍事的攻撃には耐えられる。だが時に想定外の事態が起きると、3.11以降の日本人は知っている。だからこそ、絵空事とは思えない恐怖を覚えるのだ。

オススメ度 ★★★*

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