こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ライアの祈り

otello2015-06-08

ライアの祈り

監督 黒川浩行
出演 鈴木杏樹/宇梶剛士/武田梨奈/宅間孝行/村田雄浩
ナンバー 123
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

傷つきたくない、それ以上に相手を傷つけたくないから恋に前向きになれない女。研究一筋の愚直な性格ゆえ、気持ちをうまく伝えられない男。そんなふたりが、縄文土器を通じて交流していくうちに、お互いに気になる存在になっていく。もう若くはないが、それなりに安定した生活を送っている。ところが、気を使いすぎるからなのか、日常が変わるのが怖いからなのか、あくまで慎重に関係を維持しようとするが、どちらもあと一歩踏み込まない。物語は中年真っ盛りのふたりが忘れていた胸のときめきを取り戻していく過程をコミカルに描く。人として一番大切なものは何か、だが、その答えを受け入れられない者もいる。天に祈るように手を合わせる土偶に、幸せに生きるとはどういうことかが象徴されていた。

バツイチ一人暮らしの桃子は、合コンで縄文遺跡の研究調査に携わるクマゴロウと知り合う。彼が語る縄文人の世界観に桃子は惹かれるが、彼女にはクマゴロウに言い出せない秘密があった。

根はやさしい正直者だが、無骨で不器用で女心の機微がわからないクマゴロウ。桃子をクルマに乗せ八戸の町を案内するが、女性が喜ぶロマンティックな場所とは無縁だ。それでも確固とした自分のやるべき仕事を持つ彼に桃子は小説家になる夢を思い出す。データから仮説を導く学術調査ではなく、土器の一片から当時の人々の喜怒哀楽に思いを馳せる。1万年も平和だった時代にも悲喜こもごもあったはず。クマゴロウの熱弁に、いつしか桃子も発掘現場に足しげく通い始める。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

ところが、桃子は不妊症が原因で離婚した過去があり、クマゴロウには認知症の母がいる。たとえ結婚しても、にぎやかな“家族”というありふれた幸福が手に入る可能性は低い。今のままでいいとは思わないが、情熱だけで突っ走れるほどのパワーはない。しかし、老後を考えるともう決断を先延ばしにできない。人生後半戦に差し掛かった男女の苦悩がリアルだった。

オススメ度 ★★★*

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