こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

グローリー 明日への行進

otello2015-06-22

グローリー 明日への行進 SELMA

監督 エバ・デュバーネイ
出演 デビッド・オイェロウォ/トム・ウィルキンソン/キューバ・グッディング・Jr./ティム・ロス/ジョバンニ・リビシ
ナンバー 145
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

公然と人種差別を口にする州知事、厳しい要求を突き付けられる大統領、暗殺を仄めかすFBI長官、法の下の平等を遵守しようとする裁判官、共闘する聖職者、敵意をむき出しにする官憲、不快を隠さない一般市民。様々な立場の白人たちが、黒人の公民権運動に対し、どういう態度を取るべきか逡巡し、いかに行動するか決断を迫られる。いくら暴力で抑え込もうとしても、黒人リーダーは非暴力を貫き良心に訴えてくる。そして白人たちに問いかける、“より理性的なのは誰か”と。物語は、キング牧師の生涯におけるハイライト、黒人参政権を求めて行われたセルマ大行進にスポットを当てる。銃口を向けられても警棒で打擲されても決して消すことのできない自由への熱い思いのみならず、教科書に載っていない主人公の一面もあぶりだす。世論を武器に大統領すら脅す、策士としての顔が新鮮だった。

ノーベル平和賞を受賞したキング牧師は、アラバマ州での黒人投票を認めさせるためのデモ行進を計画する。1日目のデモは警官隊の暴行で解散させられるが、全米にTV中継されたため、2日目には白人を含む多くの支援者が合流する。

白人が黒人を殺しても誰も罰せられず何も報じられない。キングは周到にメディア戦略を立て州外の人々に訴え、米国内だけでなく諸外国に向けてアラバマで起きている現実を発信しようとする。二度目の行進ではあえて撤退し、様々な思惑を持つセクトを選別したりもする。その姿は社会運動のカリスマである前に、5手先を読む勝負師のよう。時に自重し機が熟すのを待つ慎重さも世界を変えるには必要と彼の言動が教えてくれる。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

ただ、映画は感情的な盛り上がりに乏しく、史実を忠実に再現しているとは思うが登場人物に共感できるような演出はなく、50年前に地球の裏側で起きた出来事以上の感慨は持てなかった。それでも、あらゆる権利は戦って勝ち取るものであるというこの作品の主張は、明確に伝わってくる。

オススメ度 ★★*

↓公式サイト↓