こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ボーイ・ソプラノ ただひとつの歌声

otello2015-07-04

ボーイ・ソプラノ ただひとつの歌声 Boychoir

監督 フランソワ・ジラール
出演 ダスティン・ホフマン/ギャレット・ウエアリング/キャシー・ベイツ/デブラ・ウィンガー/ジョシュ・ルーカス/エディ・イザード/ケビン・マクヘイル
ナンバー 153
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

脳天を貫く金属音なのにシルクの肌触りを感じさせる高音。だが、天からの授かりものを埋もれさせている。物語は貧困家庭の少年がエリート合唱団に入団し、音楽を通じて未来を手に入れていく過程を描く。天使のような声が出せるのは変声期まで、ほどなく消えていく運命と覚悟しつつも、残された時間を精一杯生きる彼の澄んだ瞳が夢と希望を持つ大切さを象徴していた。そして圧倒的な声量のおかげで自分が認められたと知る主人公が、歌う歓びに目覚めるまでの心情がリアルに再現される。調和のとれたコーラスがホール全体に響き渡った時の張りつめた空気は、同時に至福の瞬間でもある。どれほど腕の立つ演奏者でも表現できない人間の声帯という“楽器”の素晴らしさをこの作品は教えてくれる。

母と2人荒んだ暮らしを送っていたステットは、母の死後裕福な実父の寄付で合唱専門学校に編入する。集団生活に馴染めず戸惑いを隠せなかったが、厳格な指導者・カーヴェルに鍛えられ態度を改める。

本格的な教育を受けておらず楽譜が読めないステット。クラスメートに頼み込んで基礎を習うと、みるみる上達する。何より彼自身が声楽の奥深さに魅了され、もっと成長したいと願うようになる。その熱意がカーヴェルにも伝わり、情熱を失いかけていたカーヴェルを奮い立たせる。才能を伸ばすのは本人の不断の努力と惜しみない援助、高いハードルを乗り越えようとベストを尽くす姿は必ず周囲に伝染し、時に大人たちをも変えていく。ステットの存在を妻子に秘密にしていた実父が息子を誇りに思い始める表情が印象的だ。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

やがてソリストに昇格したステットだが、母を侮辱されると怒りを爆発させる。アル中のだらしない母でもステットは慕っていた、そんな彼の優しさが神を称える数々の歌に命を吹き込み、聞くものすべてを大いなる愛で包む。まだ旅立つには若すぎる、それでも人生に立ち向かう勇気を身に着けたステットの背中が頼もしかった。

オススメ度 ★★★

↓公式サイト↓