こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

天使が消えた街

otello2015-07-09

天使が消えた街 The Face of an Angel

監督 マイケル・ウィンターボトム
出演 ダニエル・ブリュール/ケイト・ベッキンセール/カーラ・デルビーニュ/バレリオ・マスタンドレア
ナンバー 149
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

取材し、現場を見聞きし、事実を探れば探るほど遠ざかる真実。遅々と進まない執筆にプロジェクト自体が頓挫しそうな現実。物語はイタリアで起きた女子留学生殺人事件を映画化しようとしてリサーチを重ねる監督が、次第に事件の迷宮で道を見失う過程を描く。迷路のような細く入り組んだ路地とよそ者には見せない街の裏の顔、舞台となった古都は真犯人を闇にまぎれこませたまま主人公を寄せ付けない。どれほど手を加えても筋の通ったエピソードにまとまらず、個々の証拠が警察・検察調書との矛盾を訴える。いつしか妄想に逃げ込んだ彼はリアルな悪夢に襲われる。小説や映画で新たなストーリーを生み出すのは、こういった苦悩と葛藤を何度も何度も繰り返すことなのだ。

フリー記者・シモーンの著作から事件の映像化を思いついたトーマスは、現地に集まった記者たちのスキャンダリズムに辟易する。一方で警察が見落としたナイフを持っているというエドゥアルドに接触、奇妙な話を聞かされる。

被害者も容疑者もまれにみる美女、さらに容疑者の恋人、被害者の家族らが入り乱れて裁判の行方を見守っている。そんななか、トーマスは悲劇の背景ではなく、被害者がどんな人生を送ってきたかに興味を持つ。だが、彼女に対しては想像を膨らませるだけで具体的には行動せず、カフェのウエイトレス・メラニーとつるんだり、エドゥアルドに付きまとわれたりするばかり。もはやドキュメンタリーとしての映画化は無理、フィクションにするにも方向が定まらない。トーマスは混沌の中でもがき、答えを見つけられないまま窒息しそうになっていく。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

トーマスはある程度ヒット作を発表している映画作家で、これまでの作品も出来がよかったのだろう。ところが、この事件をテーマにしてからはいつまでたっても“創作の神”が降りてくる兆しはなく、凡庸なアイデアしか浮かばない。誰も求めていない脚本の構想を練るトーマスの姿に、クリエイターの孤独が象徴されていた。

オススメ度 ★★*

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