こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ソレダケ that’s it

otello2015-07-23

ソレダケ that's it

監督 石井岳龍
出演 染谷将太/水野絵梨奈/渋川清彦/村上淳/綾野剛
ナンバー 171
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

逃げる若者、追うオッサン。多彩なアングルのカメラワークは、地下街から道路、裏路地まで全速力で疾駆するスピード感だけでなく、怒りや憎しみ・不安や焦りを再現する。さらに激走する彼らの鼓動に合わせるように、暴力的に増幅されたロックの爆音が耳から脳天を貫く。還暦近くなっても全く衰えない石井監督の映画への激情がほとばしるプロローグに圧倒された。物語は無戸籍児として育てられた男が、アイデンティティと人生を取り戻そうとする姿を描く。死んでも身元は分からない、そもそも身元がない。そんな裏社会にしか居場所がない運命に抗いながら新しい自分を見つけようと奮闘する主人公の哀しみを、染谷将太が生気のない目つきで表現する。

コインロッカーから財布とハードディスクを盗んだ大黒は、持ち主の恵比寿に父の居所を聞き出そうとして逆に拉致される。居合わせた阿弥と共に脱出、デリヘル店の猪神に助けを請うが、今度はボスの千手に拘束される。

ハードディスクのデータは様々な個人情報、千手は何とか隠し場所を吐かせようと大黒と阿弥に拷問を加える。その過程で知らされた、大黒が探していた彼の父はすでに殺されていたという事実。その上で衝撃の告白を受け、大黒は絶望の海に突き落とされる。モノクロームの強烈な陰影は大黒の息苦しさを象徴する一方、ため込んでいた鬱憤の大きさも内包する。そこにあるのは途轍もないエネルギー、更なる爆発に向けての予兆をはらんでいた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

阿弥に救出され、色彩を持つ世界で復活した大黒は、千手に復讐を誓い、恵比寿・猪神を味方につける。そしてアジトへの殴り込み。武装し戦士となった大黒と阿弥は襲い掛かる警備員に銃をぶっ放しひたすら千手の瞑想室を目指す。そのシーンでの臨場感あふれるショットの連続は、銃撃戦のリアルよりも登場人物の感覚に寄り添い、類稀なる興奮をもたらしてくれる。これぞ映像のマジックだ。

オススメ度 ★★★*

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