こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ヴィンセントが教えてくれたこと

otello2015-07-25

ヴィンセントが教えてくれたこと ST.VINCENT

監督 セオドア・メルフィ
出演 ビル・マーレイ/メリッサ・マッカーシー/ナオミ・ワッツ/クリス・オダウド/テレンス・ハワード/ジェイデン・リーバーハー
ナンバー 172
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

借金まみれで酒浸り、古い一軒家に猫と住み、他人を寄せ付けず他人からも嫌われている。つまらないジョークには誰も笑わず、付き合ってくれるのはカネを渡している“夜の仕事”の女だけ。そんな偏屈ジジイの隣に母子家庭が引っ越してくる。物語は、利発で物分りもいいが体力的に劣る少年が、老人を通じて酒・タバコ・ギャンブル・女といった大人の世界に触れていくうちに、いつしかはぐれ者同士分かちがたい友情を育む過程を描く。少年は老人に困難から逃げない勇気を授けられ、老人は少年から残り少ない時間の生きる希望を与えられる。お互いに足りない部分を補ううちに少年が老人の本当の姿を知っていくプロセスは、どんな人でも過去には輝ける時があり、それらの思い出があるからこそ孤独に耐えられると教えてくれる。

破産寸前のヴィンセントは、マギーの息子・オリヴァーの子守りを引き受け、競馬場やバーを連れまわす。オリヴァーには新鮮な経験だった上、習った護身術でいじめっ子を撃退したのを機に信頼関係が深まる。

一方で、老人ホームにいる認知症の妻を見舞ったり、妊娠中のストリッパー・ダカの面倒を見たりと、無愛想で毒舌のヴィンセントにも実は優しいところがあると気づくオリヴァー。おそらく別居中の父は教育には熱心でもワクワクするような体験をさせてくれなかったのだろう、口は悪いが相棒扱いしてくれるヴィンセントに理想の父親像を見出していく。ヴィンセントもまたひ弱なオリヴァーが自分の背中を見て成長していくのが楽しい。愛と呼ぶには照れくさいが、顔を見ないと寂しい。その絶妙の距離感が心地よい。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

ヴィンセントは脳卒中で倒れるが、ダカやマギー、オリヴァーがリハビリ中の世話をする。その間、悲しい出来事や気まずい事件もあったけれど、彼らの絆は太くなっている。そしてヴィンセントはオリヴァーにとっての“聖人”になる。ひとりでいるのはイヤじゃない、でも迷惑をかけあっても誰かと一緒にいる方が人生はより豊かになる。そう思わせてくれる作品だった。

オススメ度 ★★★*

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