こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

野火

otello2015-07-31

野火

監督 塚本晋也
出演 塚本晋也/リリー・フランキー/中村達也/森優作/中村優子
ナンバー 179
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

兵士としては役に立たず病人というほど重篤ではない健康状態で生き抜く道を選択した男は、死よりも過酷な現実と直面する。“皇軍兵”の誇りは一片もない、飢えは理性すら奪い、人肉を喰らうまでに堕ちる。その光景はまさに地獄、物語は第二次大戦中、レイテ島に取り残された日本兵のサバイバルを描く。陸軍上層部にとって兵卒の命など使い捨て、空腹と疲労と機銃掃射と待ち伏せで倒れた友軍を尻目に、主人公は黙々と重い歩を進める。もはや敵は米軍やゲリラではなく、隙あらば食料を盗もうとする同胞たち。そんな状況で彼を支えたのは懐かしい故郷や愛する家族への思いではなく、目にした事件体験した事実を記憶にとどめ記録に残す、作家の使命感だ。映画は、補給を絶たれた軍隊のみじめで臆病で弱々しい実態を浮き彫りにしていく。

結核のため部隊を追い出された田村一等兵野戦病院に向かうが入院を断られる。行き場のなくなった田村はジャングルで単独行動をとるうちに撤退中の他部隊と遭遇、原隊が全滅したと聞かされて彼らと合流する。

口にするのはやせたイモと野草ばかり、兵士たちは田村が手に入れた塩を貪り舐める。発汗で体内のミネラルが不足しているのだろう、疲れ果てているのに水や食べ物ではなく塩分を摂取するのを初めて見た。道なき道はいつ奇襲されるかわからず、延々と続くジャングルの緑は忌まわしい呪いのよう。田村はその後も彼らについていくが、夜襲にあい昏倒、若い兵士・永松に助けられ“猿の肉”と呼ぶ干し肉を与えられる。永松は年配の安田と一緒にいた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

永松と安田は原住民を射殺し常食にしている。そして今や田村の体を狙っている。自分が生き残るために個人的に恨んでも憎んでもいない敵や市民を殺すのが戦場ならば、安田たちの行為も戦争中の出来事と正当化されるのではと思わせる狂気の連鎖。極限で露わになる人間の真実に、鉛を飲まされた気分になった。

オススメ度 ★★★

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