こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

顔のないヒトラーたち

otello2015-08-06

顔のないヒトラーたち IM LABYRINTH DES SCHWEIGENS

監督 ジュリオ・リッチャレッリ
出演 アレクサンダー・フェーリング/フリーデリーケ・ベヒト/アンドレ・ジマンスキー/ゲルト・フォス
ナンバー 183
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

アウシュヴィッツを知っているか」の問いに、街ゆく人々はみな首を横に振る。映画は1958年西ドイツ、封印されていた強制収容所での出来事を掘り起こした若手検事の奮闘を描く。ナチスの残党はまだ社会のいたるところに潜んでいる。友人の父親かもしれない。そんな状況下で被害者ですら忘れようとしている過去をひとつずつ探り当てていく。山のごとく積まれた文書を丹念に検証し、8000人もの容疑者の居場所を突き止める気の遠くなる作業をこなしていく主人公と同僚、彼らを動かしているのは思想や宗教・価値観を超越した邪悪に対する正義と良心の叫びだ。かつてユダヤ人を虐殺・虐待した“戦犯”が、パン屋や教師など“善良な市民”に溶け込んでいるあたり、「悪の凡庸さ」はどこにでもあり誰にでもあてはまると訴える。

軽微犯の裁判にうんざりしていたヨハンは、元SS隊員が法令に反し教職についているという記者のネタに飛びつき、調査を始める。強制収容所を生き延びたユダヤ人たちの想像を絶する体験談はヨハンを鼓舞していく。

目をつぶされた男の供述に事務官が言葉を失うシーンは、当時のドイツ人がいかに強制収容所に無関心だったかを象徴する。東側だったポーランドの資料は乏しかったはず、そもそも情報がなく、一部のユダヤ人活動家以外は皆口を閉ざしていたのを考えれば、ごく当然の反応だ。そして娘を人体実験台にされた男の話は聞くに堪えないおぞましさ。ヨハンたちだけではない、つらい記憶を絞り出した生存者がいるからこそホロコーストは実体を持ち、ナチスの犯罪者たちを断罪できたのだ。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

ヨハンはメンゲレをメインターゲットに定めるが、間一髪取り逃がす。それでも十数人の有罪判決を勝ち取る。今日繰り返し語られている悲劇は、正しいことを為す勇気と使命感に燃えたヨハンのような英雄がいたから歴史として認識されている。それが逆に、発覚せずに埋もれた戦時中の犯罪行為の多さを物語っていた。。。

オススメ度 ★★★*

↓公式サイト↓