こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

わたしの名前は...

otello2015-08-11

わたしの名前は... Je m'appelle Hmmm...

監督 アニエス・トゥルブレ
出演 ルー=レリア・デュメールリアック/シルビー・テステュー/ジャック・ボナフェ/ダグラス・ゴードン/アントニオ・ネグリ
ナンバー 185
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

母は働きづめで疲れている、父は失業中で不機嫌、幼い妹弟の世話をしながら健気に暮らすヒロインは、誰にも打ち明けられない悩みを抱えひとりで苦しんでいる。こんな家を出ていきたい、消えてなくなりたい。海岸沿いに停まっていたトラックに彼女は後先考えず飛び乗ってしまう。物語はそんな少女と妻子を亡くした中年男が、失われた関係を構築していく過程を描く。言葉は通じないけれど、哀しみを胸に生きる者同士お互いの孤独は理解できる。いつしかふたりは心を通わせ、道中かけがえのない思いを育んでいく。高いキャビンから望む田舎道のうらぶれた風景が彼らの未来、前に進めば変わるかもしれないと思わせるが結局ほとんど同じ。それでも頼りたい、保護したい。純粋な愛の形がはかなく美しい。

父親から性的虐待を受けているセリーヌは小学校の自然教室を抜け出して長距離トラックの寝台に忍び込む。ドライバーのピーターは気づいてもそのまま運転を続けるが、警察はセリーヌの失踪を事件としてマスコミに流す。

ピーターは新聞やTVにセリーヌの顔が露出しているのを見て、世間の動きを察知する。しかし彼女の事情を知ってしまったからには父親の元に返せない。それ以上にセリーヌは自分を信用してくれている。片言で会話するうちに手をつないでじゃれ合ったり肩車をしたりと、ふたりは仲のいい父娘のようになっていく。いつか別れが来るのは分かっている、だが、この濃密な時間が永遠に終わらないでほしいと切実に願う。ふたりが小さな幸せを共有するシーンの数々は、切なさと優しさに満ちあふれていた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

コンテナを切り離し、トレーラーだけになってもふたりは行動を共にする。目的地はどこなのか、これからどうするつもりなのか。何も決めない代わりに話題にもしないのは、旅の終点が近づいているのがわかっているから。真実を闇に葬ることでしかセリーヌを守れないピーターの、不器用だけれど断固とした自己犠牲が深い余韻を残す作品だった。

オススメ度 ★★★

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