こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ホワイト・ゴッド 少女と犬の狂詩曲

otello2015-08-15

ホワイト・ゴッド 少女と犬の狂詩曲 Feher Isten

監督 コーネル・ムンドルッツォ
出演 ジョーフィア・プショッタ/シャーンドル・ジョーテール
ナンバー 190
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

瓦礫の山から人通りの絶えない街路、入り組んだ市場の雑踏、商店のバックヤードまで全速力で走り、止まり、隠れ、逃げる。追いかけてくる職員はみな捕獲具を持ち、捕まればほとんどが死を待つだけの運命。不安に脅えつつも生き延びようとする本能が疲れ切った脚にエネルギーを与える。そんな、地上数十センチの視点で撮影された逃走・追跡場面は、下手なカーチェイスよりも刺激的でスリリングだ。感情や意志を持ち仲間同士でコミュニケーションをとって協力する。そして恐怖と痛み、自分たちを害獣とみなし危害を加えた人々や虐待した身勝手な飼い主たちは絶対に忘れない。“もう人間の都合で振り回されるのは嫌だ”、カメラは犬たちの気持ちに寄り添い、彼らの“生存の自由”への思いを再現する。

雑種犬のハーゲンは飼い主のリリから無理やり引き離され、捨てられる。空き地で野良犬の群れと合流したところを野犬狩りに急襲され、ホームレスに保護されるが転売される。ハーゲンはそこで闘犬としての訓練を受ける。

過酷なトレーニングで心身を鍛えられ、歯まで研がれたハーゲン。ところが試合で対戦相手を噛み殺して逃亡すると再び空き地に戻り、以前助けてくれたブチ犬と再会する。薬物投与がハーゲンを“進化”させたのか、自らの安全を図りながら時に他の犬たちと力を合わせて生命の危機を脱する姿は豊かな知性すら感じさせる。その間、リリは懸命にハーゲンを探すが手がかりはつかめない。リリの孤独とハーゲンの怒り、並行して語られるふたつのエピソードは人と犬の関係を逆行させる予感をはらむ。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

やがて、野犬収容所に送り込まれたハーゲンは処分寸前に脱走、他の犬も後に続く。今こそ苦痛からの解放と生きる権利を求めて蜂起するとき、もはや彼らには人間に対する復讐心しかない。通りを埋め尽くす200頭余りの犬の大群が通行人やクルマを蹴散らしながら激走する映像は圧巻だった。虐げられた弱者の反乱は格差社会の行きつく先を象徴していた。

オススメ度 ★★★★

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