こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ローマに消えた男

otello2015-09-07

ローマに消えた男 Viva la liberta

監督 ロベルト・アンド
出演 トニ・セルビッロ/バレリオ・マスタンドレア/バレリア・ブルーニ・テデスキ/ミケーラ・チェスコン/アンナ・ボナイウート
ナンバー 205
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

重圧に耐えかねすべてを投げ出してしまった政治家。楽天的で教養に満ちつつも感情を直撃する言葉で話す男。性格は正反対だが2人の見かけは同じ、長年にわたってお互いの存在を周囲に黙っているほどの断絶が、彼らを引き裂いた出来事の根の深さをほのめかす。物語は、イタリアの左翼政党党首が失踪、双子の兄弟が代役を務める過程で、人生に本当に大切なものは何かを模索する姿を描く。表舞台を離れて手に入れたのは忘れていた青春のきらめき。突然脚光を浴びて蘇ったのは若き日の夢と情熱。立場が入れ替わって見つけた生きる喜び、がむしゃらに突っ走る年齢を過ぎた人間は、むしろ“運命の力”に身を委ねてみるのもいいのではと主人公は訴える。本筋とは関係ないが、蛇のタトゥーを胸元から覗かせる女性側近が強烈な印象を残す。

支持率低下に悩むエンリコは誰にも知らせずパリに脱出、元恋人・ダニエルの家に身を寄せる。秘書のアンドレアは双子の兄弟・ジョバンニを探し出して急場をしのごうとする。

レストランで記者の質問を受けるジョバンニは如才なく答え翌日の新聞を賑わす。ジョバンニの発言は大衆受けしたちまち支持率は回復、アンドレアはジョバンニにエンリコを演じ続けさせる。政界にしがらみのないジョバンニンの意見は正鵠を射ていたのだろう、そして政敵ですら魅了してしまう人間性はエンリコとの因縁が生んだつらい時期を過ごしてきた経験が基になっているに違いない。その後、彼は大統領との面会も無事に済ませ、女性首相との会談ではタンゴを踊るほど打ち解ける。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

やがて見つかった一枚の写真、ダニエルを挟んで写った2人の肖像が、仲の良かった兄弟の亀裂の原因を暗示する。おそらくジョバンニの病歴もその時のトラウマ。あえて多くを語らず2人の半生を想像させる語り口は、彼らにもう肩の荷を下ろしてもよいころだと優しく告げているよう。ストレスをためずに暮らすのは難しい、時に思いのままに行動することも必要だとこの作品は教えてくれる。

オススメ度 ★★★*

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