こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

プライベート・ウォー A PRIVATE WAR

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銃弾が飛び交っている。爆弾が炸裂する。市民が瓦礫の下敷きになっている。女子供が血まみれになって泣き叫んでいる。国家の正規軍同士が干戈を交える戦争とは違い、非戦闘員も巻き込んで殺し合う内戦。物語は常に武力紛争の最前線に身を投じ、そこで命を落とした犠牲者を報じ、生存者の話を伝えようとする女性ジャーナリストの激烈な生き様を描く。結婚は破綻した。子供は流産した。被弾して重傷を負った。悪夢にうなされ酒に溺れた。それでも戦火に脅かされている人々がいると知ると、考えるより先に現場に飛び込んでいく。やがて彼女は大都会での安穏とした暮らしよりも戦場のほうが居心地がいいと思えるようになっていく。海賊のような黒いアイパッチが、死の恐怖を克服した彼女の鋼鉄の意思を体現していた。

ロンドンの記者・メリーはスリランカ内戦の取材中左目を失明するが、彼女のレポートは評価され生きる伝説と呼ばれるようになる。その後イラクでは虐殺された反体制派住民の遺体発掘に立ち会う。

“真実” を確かめるまでは決して後に退かない。たとえ武装兵が眼前に迫っていても臆せず突進する。見たこと聞いたこと知ったこと感じたことを書き上げるまで休まない彼女は、心配する編集長の忠告に耳を貸さず、スター記者でありながらも新聞社内では厄介者扱い。さらに若手が派遣されると怒鳴り散らすほど自己顕示欲の塊でもある。戦乱で苦しめられる弱き者の視点に立った記事は、悲惨な状況を世界中に知らせる意味で貴重ではある。だが、むしろ自分を危険にさらし周囲を巻き込む彼女の蛮勇は独りよがりにも見える。そのあたり、メリーをジャーナリズムの英雄と祭り上げるだけではない。彼女を演じたロザムンド・パイクは人間的な欠点まで含めて繊細に再現していた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

圧巻はカダフィ大佐への単独インタビュー、言いにくい事実をずけずけと口にする。リビア革命後見世物にされたカダフィの死体に対するメリーの態度が、多数の市民の命を奪った独裁者への憎しみを象徴していた。

監督  マシュー・ハイネマン
出演  ロザムンド・パイク/ジェイミー・ドーナン/スタンリー・トゥッチ
ナンバー  169
オススメ度  ★★★*


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