こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

天気の子

f:id:otello:20190722102742j:plain



強く願うだけで雨雲が切れたちまち陽射しがそそぐ。フリマ、結婚式、運動会etc. その能力を使ってちょっとした人助けをすると、感謝されるうえにお金までもらえる。物語は、小さな島から家出してきた少年と天気を操る少女が自然災害を防ごうとする姿を描く。梅雨明けしないままの8月、少年は陰鬱な思いを持て余している。もう青空を見上げる機会はないのかもしれない。陽光を浴びる日は来ないのかもしれない。そんな時出会った少女は最後の希望。だが彼女には過酷な運命が待ち受けている。世界を救うべきなのか、彼女を救うべきなのか。少年は心の声に従って走り続ける。雲散霧消した夜空に花開く様々な形の大輪の花火が、たとえ町は鉛色に染まっていても美しいものは人の感情を慰めると教えてくれる。

見習いライターになった帆高は「晴女」の取材中に、以前食べ物をくれた少女をチンピラから助け出す。陽菜と名乗った彼女こそ探していた「晴女」、ふたりはネットで「晴れ間乞い」を開業する。

陽菜は親がおらず小学生の弟と2人暮らし。帆高と陽菜は順調に依頼をこなせるようになると、他人の役に立っている実感を得ると同時にお互いを意識するようになる。短いけれど充実した日々、長雨で沈んでいた人々の気持ちが陽菜の力で笑顔に変わっていく。ところが陽菜の体に少しずつ異変が生じるとともに帆高にも警察の手が伸びる。歌舞伎町の雑踏から湿度に満ちた高層ビル群の俯瞰、雨滴の一粒一粒から巨大な雨雲の内部、それら細密に描写された映像はハイパーリアルに東京の現風景を再現し、帆高と陽菜が知覚する現実を体感させる。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

己の役割を自覚した陽菜は自らの実在と引き換えに水没する町に光明をもたらす。だが帆高は本当に大切なものは何かに気づき、孤独な戦いを始める。ヒーローでもない者に自己犠牲を期待するのは時代遅れ、まず身近にいる人が最優先と帆高は決意するのだ。バラバラになって生きるより、絶望的な未来でも一緒に迎えた方が幸せ。愛にしかできないことはまだまだあるとこの作品は訴える。

監督  新海誠
出演  醍醐虎汰朗/森七菜/本田翼/吉柳咲良/平泉成/梶裕貴/倍賞千恵子/小栗旬
ナンバー  171
オススメ度  ★★★


↓公式サイト↓
https://tenkinoko.com/