こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

存在のない子供たち  CAPHARNAUM

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“両親を訴える、ボクを産んだ罪で!” 法廷でそう言い放った少年の目は怒りと憎しみに満ちている。怠惰な父と無責任な母は言い訳ばかりを繰り返す。物語は、家族の元から飛び出した少年がなぜ傷害事件を犯したか、その真実に迫る。年齢は本人も知らず、医師に12~3歳と推定される。学校には行かず家計を支えるために朝から晩まで働き詰めだったが、ストリートで鍛えたタフな精神力は多少の困難は跳ね返す。やがて似たような境遇の母子と知り合った彼は初めて他人のやさしさに触れ、特別な感情を抱いていく。だが平穏な時間は長くは続かない。自分を冷たくあしらった世間と過酷な己の運命を呪いながらも人間としてのプライドは捨てていない、そんな、幼くして大人になった主人公の力強いまなざしが印象的だった。

仲の良い妹が雑貨商の嫁に売られたのを機に家出したゼインは、出稼ぎメイド・ティゲストのバラックに転がり込む。ティゲストが日中留守の間、ゼインは彼女の赤ちゃんの世話を頼まれる。

弟妹たちの面倒を見ていたゼインにとっては楽な仕事。ティゲストに親切にされたお返しに赤ちゃんをかわいがることで、愛情が芽生えている。ところがティゲストが突然当局に拘束され、ゼインは赤ちゃんと2人取り残される。ティゲストを探して当てもなく町をさまようゼイン。カネはなく食べものも底をつき赤ちゃんに与えるミルクもない。途方に暮れ難民救済所を訪ねたりもするが、身分証のないゼインは助けを求める声を上げられない。不幸のスパイラルを滑り落ちるようなゼインの転落劇は切なすぎて正視できなかった。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

闇ブローカーに赤ちゃんを売ってしまったゼインは、出生証明書を取りに家に戻る。しかし、両親は役所への届け出をしておらず、公的にゼインは存在しない。妹は死んだ。他にも兄弟が4人いる。両親は子供を儲けてもまともに育てる気はない。こうして貧困は連鎖する。それでも、強い意志があれば断ち切れる。ゼインの不器用な笑顔に、わずかな希望が見いだせた。

監督  ナディーン・ラバキー
出演  ゼイン・アル=ラフィーア/ヨルダノス・シフェラウ/ボルワティフ・トレジャー・バンコレ/カウサル・アル=ハッダード/ファーディー・カーメル・ユーセフ/シドラ・イザーム/アラーア・シュシュニーヤ
ナンバー  175
オススメ度  ★★*


↓公式サイト↓
http://sonzai-movie.jp/