こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

カーマイン・ストリート・ギター CARMINE STREET GUITARS

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古い街並みに馴染んだありふれた外観のギターショップ。店主は手作りにこだわり、気軽に立ち寄る客たちと音楽談議に花を咲かせる。カメラは廃材からギターを作る男の古風なスタイルの生き方に迫る。材料となる木材は19世紀に建築された建物の解体現場で調達されたものばかり。100年以上もの年月が木を乾燥させギターの音質に奥行きを持たせるという。柱や梁に使われた木材には時に傷や焦げ跡が残っていたりするが、そのまま残しておくと不思議な風合いがでる。そして、曽祖父から受け継いだ工具でギターの形に削り出し、細部を仕上げていく。もはや芸術的ともいえる職人技、ハイテクに一切頼らず1本ずつ手掛けたギターの音色は、張り詰めた高音から濁った低音まで独特のまろやかさを保っていた。

NY・グリニッジビレッジでエレキギター工房を営むリックは、昔ながらの工程でギターを制作販売修理する日々を送っている。顧客には有名なギタリストが多数いて、ふらりと店を訪ねてくる。

雑然と散らかった工房で黙々と手を動かすリック。その横ではパンク風の外見をした弟子のシンディがギター本体に文字やイラストを電熱線で焼き付けている。まだ25歳なのに、大金を稼ぐよりも地道に手に職をつけ、自分の仕事が形になって残る充実感にシンディは満足している。そんな彼女が自作のギター写真をインスタグラムにアップし、“少しはテクノロジーに頼れば?” とリックに勧めるシーンは、“変わらない結果を残すためには変わり続ける” 必要があると教えてくれる。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

不動産業者が訪れて店の広さを尋ねられるが、リックは木で鼻をくくったような対応で追い返す。だがそれは、高齢のリックが亡くなった後の後継者問題を考えさせられる。子供はいない、店はシンディが継ぐのか。それとも、シンディは別の場所で独立して店を開くのか。いずれにせよ、リックの店の周辺では再開発計画が持ち上がっているのだろう。近い将来、リックの店から出た廃材でシンディがギターを作る日が来る予感を覚えた。

監督  ロン・マン
出演  リック・ケリー/シンディ・ヒュレッジ/ドロシー・ケリー/ジム・ジャームッシュ/ニルス・クライン
ナンバー  193
オススメ度  ★★★


↓公式サイト↓
http://www.bitters.co.jp/carminestreetguitars/