こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

火口のふたり

f:id:otello:20190827083939j:plain


肉体をひたすら貪り合う男と女。己の命を燃やすかのように、相手の実存を確かめるかのように。快感だけではない、それは今この時間自分が生きている証を求めているようでもある。物語は、再会した元恋人たちが若き日の情熱そのままにセックスに没頭する姿に密着する。女を抱けるのはあと5日、男は永遠に時が止まればいいと思っている。女はきっぱりとけじめをつけ新しい人生に進もうと決心している。まるで世界から取り残されたかのようなふたりは心身の準備さえ整えば接合を繰り返し、絶頂に昇りつめ、果てては、過去を懐かしみ、しばしの間日常に戻る。恋などというロマンティックなものじゃない。愛などという純粋な気持ちでもない。ただただ “身体の言い分に身を委ねる” ふたりに、“生と性” という人間の本質が凝縮されていた。

直子の結婚式に出席するために帰省した賢治は、彼女の家に上がる。婚約者は出張中という直子の一夜限りの誘いを断り切れず賢治は彼女を抱く。ふたりは東京にいたころ付き合った仲だった。

ところが、一度火がついてしまった賢治は欲望を抑えきれず、翌日再び直子の家を訪れテーブルの上に彼女を押し倒す。理性は嫌がっていても体が反応してしまう直子。婚約者が帰ってくる前日までと限定してふたりは食事と外出時以外裸で過ごす。その間よみがえる東京で暮らした日々の記憶。いとこで幼馴染だったふたりは血縁ゆえの後ろめたさからかえって過激になりそのスリルを楽しんでいたという。いつか別れることはわかっている。だからこそ誰かに引き裂かれるのではなく、破壊衝動に走る。幸せな未来像を描けない男と女の刹那的な情愛を哀切に満ちた音楽で浮き彫りにする演出は、しみじみとした切なさが胸を熱くする。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

ふたりはバスで一泊旅行に出て、最後の夜もホテルのベッドで交わる。だが後戻りできないところまで突き進む勇気もなく、ふがいない賢治は宿泊費を直子に払わせてしまう。それでも、終末を一緒に迎える女がいる幸運をかみしめているようだった。

監督  荒井晴彦
出演  柄本佑/瀧内公美
ナンバー  200
オススメ度  ★★★*


↓公式サイト↓
http://kakounofutari-movie.jp/