こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド

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大脱走」の主役に抜擢されるはずだった俳優と、スタジオで伝説の格闘家をぶちのめしたスタントマン。長年息ぴったりのコンビを組んできた2人は、虚構の世界でだけ自分たちの暴力性を解放してきた。ヒッピーどもが来るまでは。物語は、TVの影響で瀕死状態だった時代のハリウッド、高級住宅地で隣人となった、落ち目の男優と新進女優の数奇な運命を描く。変革の波が訪れているのに古い価値観にしがみつく男たち。才能あふれる監督と結婚し将来を嘱望される女。自宅と撮影所、同じ業界で働き同じ空気を吸っているのになかなか彼らの動線は交わらない。「1969年風のオープンセット」を再現したオープンセットで繰り広げられる彼らの日常の細かなやり取りは、50年前の映画のようなギトギトした質感の映像に仕上がっている。

かつての人気を取り戻そうともがくリックはイタリア製西部劇への出演をオファーされるが決心がつかず、相棒のクリフとつるむ日々。新作映画のセリフを覚えられずいら立ちを募らせていく。

ちょっとした視線の合わせ方と意味ありげな会話の間、なにげない仕種で、登場人物の思惑を饒舌に語らせる演出は健在。セリフの一言一言に裏のメッセージが込められていて、時にそれは強烈な武器になることをこの作品は印象付ける。モハメド・アリを崇拝し自身の哲学を熱弁するブルース・リーが、クリフに執拗に絡んだ末にタイマンとなる。このシーンには、タランティーノの、身体言語には言葉以上の力があるという信念が感じられた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

イタリア映画の撮影を終えて帰国したリックとクリフは、リックに自宅に戻る。そこに押し掛けたヒッピーたちは銃やナイフを持っている。まさしく2人が映画の中でさんざん経験してきたアクションを再現する状況だが、芝居のように手加減する必要はない。むしろ徹底的にやることで映画の嘘くささを排除しようとする。だがこの映画こそが壮大なホラ話。“ジョークに大切なのはディテール” という「レザボア・ドッグス」の初心の実践に胸が躍った。

監督  クエンティン・タランティーノ
出演  レオナルド・ディカプリオ/ブラッド・ピット/アル・パチーノ/マーゴット・ロビー/ブルース・ダーン/エミール・ハーシュ/カート・ラッセル/マイケル・マドセン/ダミアン・ルイス/ダコタ・ファニング
ナンバー  206
オススメ度  ★★★*


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