こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ひとよ

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母の勇気は、殴られ蹴られ痣だらけ傷だらけの地獄から救ってくれた。だが本当の地獄はそのあとにやってくる。心無い視線を向けられた。夢をあきらめた。ずっと秘密にして息をひそめるようにして暮らしてきた。物語は、子供たちを守るためにDV夫を殺した女が服役・放浪を経て戻ってきたことから起きる、残された家族たちの葛藤を描く。懐かしい再会になるはずだった。涙の抱擁で迎えられるはずだった。しかし、母を待っていたのは大人になった子供たちの遠慮がちな態度。人殺しの子供というレッテルは耐えがたい苦痛だった。町の人々の偏見にさらされるくらいなら父に暴力をふるわれていた方がマシだった。助けてくれた母に対し、複雑で歪んだ感情しか持てない3兄弟妹の割り切れない思いがリアルに再現されていた。

夫を轢き殺したこはるは、大樹・雄二・園子の3人息子娘たちに、“これからは自由に生きろ” と言い残して自首する。15年後、帰ってきたこはるに、3人はどう対応していいかわからない。

特に雄二は露骨にこはるへの憎しみを表出させる。小説家になりたかったのにいまだにフリーライターに甘んじている自分の弱さをこはるに転嫁し、大樹や園子にたしなめられる。母の不在に慣れ切っていた大樹や園子もそれぞれに問題を抱えていて、母子4人で食卓を囲んでも会話は弾まない。一方でこはるはまだ記憶の中のイメージを引きずっていて、子供たちの食事の支度をする。母が子を思う気持ちは時間と共に濃密になり、子が母を思う気持ちは成長と共に拡散する。その温度差に共感した。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

事件後、実家のタクシー会社は親戚が引き継いでいたが、こはるの帰還によって、今度はその会社が嫌がらせを受ける。地元住民もう忘れているのに雄二は過去を蒸し返して母に復讐しようとする。ところが、むしろ雄二の仕打ちが、こはるだけでなく大樹や園子の抑えてきた心のしこりを解放するのだ。厄介だが縁を切るわけにもいかない、でもやっぱり最後は協力し合う肉親の絆、それを愛というのだろう。

監督  白石和彌
出演  佐藤健/鈴木亮平/松岡茉優/音尾琢真/佐々木蔵之介/田中裕子
ナンバー  231
オススメ度  ★★★


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