こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

真実

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数十年のキャリアを通じて様々な女の人生を演じてきた。役になり切ってリアリティを出してきた。やがて彼女はプライベートな時間も女優であるのをやめず、いつしかどの人格が本当の自分かわからなくなってしまう。いや、都合のいい記憶のみを抽出しているのかもしれない。物語は、フランスの国民的女優が自伝を上梓、その本に翻弄される家族や近しい人々との軋轢を描く。綴られているのはきれいごとばかり、人間関係は美化され、ライバルや私生活を知る秘書には一切触れない。己の人生は賛美しても他者への思いやりはない。書かれた嘘と書かれなかった事実をについて、彼女を巡る人々の反応は様々、だが、米国に渡った娘は見抜いている。母と娘、いちばん近しい女同士の複雑に絡み合った感情がシニカルに再現されていた。

母・ファビエンヌの自伝出版祝に夫・娘と共に実家に戻ったリミュールは、その内容に驚きと不満を隠せない。愛情に満ちた母娘の描写は、リミュールにはまったく覚えのないものだった。

ほとんど家庭は顧みなかったのだろう、それどころか、慕っていたサラおばさんをファビエンヌが追い落としたことを、リミュールは恨んでいる。女優として尊敬し、いい暮らしをさせてもらって感謝しているものの、父を追い出したのは許せない。かといって絶縁するほど憎んでいるわけでもない。特別な母を持った娘だけが感じられる好感と嫌悪の相反する思い。もう成熟した大人になっているのにわだかまりは解けない。ところがファビエンヌの新たな一面を発見し、リミュールは彼女の真実に一歩近づいた気になる。血縁といえども個を尊重するドライなフランス人思考が新鮮だった。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

一方で新作映画でファビエンヌは母の愛情を受けずに年老いた女に扮し、リミュールが味った “母の不在” による素直な愛の欠如を表現しなければならず、少しはリミュールの寂しさを理解する。劇的な展開はなく重大な秘密が明かされるわけでもない。それでも2人の間に漂う緊張感は母娘だからこその葛藤に満ちていた。

監督  是枝裕和
出演  カトリーヌ・ドヌーブ/ジュリエット・ビノシュ/ イーサン・ホーク/リュディビーヌ・サニエ/クレモンティーヌグルニエ/マノン・クラベル/アラン・リボル/クリスチャン・クラエ/ロジェ・バン・オール
ナンバー  244
オススメ度  ★★★


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