嫁ぐまで夫の顔を知らなかった。婚礼の最中も緊張して体がこわばっていた。そして迎えた初夜、へそのくぼみに落とされた卵黄を夫はひと口で吸いこんだ。翌朝、血の付いたシーツが処女だった証として庭の木に結わえられる。物語は女がまだ父や夫といった男たちの所有物と考えられていた時代のベトナム、資産家の第三夫人となった少女の日常を描く。中国文明の影響が濃く、決定権は男たちが持つ。男子を産まなければ “奥様” とは呼ばれない現実が彼女たちに無言のプレッシャーを与え続ける。一方で、元々小さな世界に住んでいたヒロインは、年齢が近い義姪と戯れ、大人に傅かれ、大きな不満も不安もなく過ごしている。緑深い農村部、水浴する川のせせらぎ、幽深な竹藪、風通しのいい家と蚊帳を吊るした寝室etc. 亜熱帯の暮らしが瑞々しい感性で再現されていた。
14歳のメイは、第一夫人のハ、第二夫人のスアンに可愛がられ、新しい環境に少しずつ馴染んでいく。だが、狭量な人間関係の中で、不義密通、禁じられた恋を目の当たりにしていく。
ほどなくメイは妊娠、周囲の人たちに大切に扱われながら男の子の誕生を祈る。子供が3人とも娘だったスアンは肩身の狭い思いをしていたのか、ハが産んだ一家の跡取り息子でもあるソンと情を重ねている。そのあたりの大人の思惑はメイには理解できないのか、彼女は特に気持ちを動かされたりはしない。早朝の疎林で愛し合う使用人を密告したのも、単に目撃したことを話しただけなのだろう。このあたりのメイの鈍感さは残酷ですらあった。
◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆
ソンは、親が決めた縁談に “見知らぬ女と結婚するのはイヤ” と難色を示し、妻となった少女に手を触れない。離縁も断られ、新婦は行き場がなくなる。やがて起こった悲劇。女というだけで道は限られてくる。その状況を、心を殺して受け入れなければ生きていけない。美しい田園風景はそんな彼女たちの哀しみを象徴していた。ただ、もっとメイの心情や波乱のある展開を期待したのだが、映像は最後まで寡黙だった。
監督 アッシュ・メイフェア
出演 トラン・ヌー・イェン・ケー/グエン・フオン・チャー・ミー/マイ・トゥー・フオン/グエン・ニュー・クイン
ナンバー 245
オススメ度 ★★*