「白鳥の湖」のメロディに乗せて、傾斜走行し、軽やかな前後ターンを見せ、その場で旋回する。キャタピラーを自在に操りバレリーナのごとき優雅なダンスを踊る姿は、戦車とは思えないほど美しかった。物語は、独ソ戦末期、独軍戦車部隊の演習のために駆り出されたソ連兵捕虜の苦闘を描く。与えられたのは扱い慣れた祖国の戦車。修理し整備し戦える状態に戻す作業の中で、捕虜たちは一縷の希望を見出していく。そして勝ち目のない戦場で示す不退転の決意。飛来する砲弾はハイパーリアルなCGで再現され、時間が引き延ばされたように感じる現場の兵士の感覚を体感させてくれる。前面装甲の堅牢な独軍戦車に対し、砲弾を路面にワンバウンドさせて底部に命中させるシーンには笑ってしまったが。。。
独軍将校イエーガーから、ソ連製戦車・T-34の操縦を命じられたニコライは3人の部下と共に逃亡計画を練り始める。戦車内に残っていた砲弾と手榴弾を隠し、満を持して演習の日を待つ。
独ソ戦初期の初陣で捕虜となったニコライは何度も脱走を試みては失敗、ユダヤ人らと同じ施設に収容されている。過酷な運命を不屈の魂で乗り越える若手将校の設定は、ガチガチのイデオロギーで蛮勇をふるうソ連軍将校というハリウッド映画の定番とは違い、死を恐れず自ら苦難に飛び込むヒーローに近い。独軍はナチス色が濃いのに、ソ連軍もソ連人も全然アカくなく、ロシア語を話していなければどこの国の兵士かわからないほどだ。もはやロシアにおいてスターリン時代など遠い昔話になってしまったのだろうか。
◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆
演習が始まるとニコライたちは煙幕を張って独軍戦車を撃破、そのまま正門を破って収容所から逃れる。目指す先はチェコ、途中補給に立ち寄った町の住人がニコライたちに好意的だったのはそれだけナチス支配が苛烈だったということか。クライマックスも騎士道精神に基づいた決闘を模し、ニコライはイエーガーとの一騎打ちに臨む。悲惨なはずの戦争をアクションの素材にしてしまう割り切りが心地よかった。
監督 アレクセイ・シドロフ
出演 アレクサンドル・ペトロフ/イリーナ・ストラシェンバウム/ビツェンツ・キーファー/ビクトル・ドブロヌラボフ/アントン・ボグダノフ/ユーリイ・ボリソフ
ナンバー 259
オススメ度 ★★★
↓公式サイト↓
http://t-34.jp/