こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

HUMAN LOST 人間失格

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医療の革命的な進歩で健康長寿が実現した近未来、病気になってもすぐに治療され、致命的な重傷を負わない限りケガもほどなく治癒する。ただしその恩恵を受けられるのはネットワークに自らをリンクさせた者のみ。物語は、そんな社会でアイデンティティに疑問を抱いた男たちの苦悩と葛藤・抵抗活動を描く。限界寿命は120歳まで伸びた。だが格差はますます開き一般市民には長時間労働が課されている。死にたくても死なせてもらえず、苦痛に満ちた人生から逃れるにはネットワークから離脱し細胞を暴走させるしかない。安穏とした余生を保証された超高齢上級国民と永遠とも思える時間を奴隷状態で働く勤労世代の対比が現代日本高齢化社会を皮肉り、この作品の世界観は現在の延長上にあると予感させる。

貧民地域で絵を描いて怠惰に暮らしていた要蔵は、親友の武市らとともに上流市民居住地区に乱入を試みるが失敗、美子と名乗る健康管理機関の女に命を救われる。美子は要蔵と同じ体質を持っていた。

人々の体内に埋め込まれたナノテクノロジーは怒りや悲しみを抑制し、多幸感が得られるように脳内ホルモンを調節している。肉体だけなく心まで操ろうとする健康管理機関。感情は人間が生きている証と言う武市の言葉こそ、健康状態という究極のプライバシーが失われた管理社会における自由のなさを象徴していた。危険思想を抑圧するのではなく、脳内をコントロールしてしまえば簡単に国民を支配できる。健康長寿の代償としてはあまりにも大きすぎるとこの時代の有権者は思わなかったのだろうか。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

120歳を迎えた人々の長寿を祝う「人間合格式」を阻止するために反体制派の元医師・堀木が暗躍、一方で美子は要蔵と微妙な距離を取りながら見守っている。どちらの側につくのが正義なのか迷っている要蔵は、堀木の破壊行為に巻き込まれる。このあたり、キャラクターからシチュエーションまであらゆる設定が混沌とし展開は観念化、スタイリッシュな映像はクールだっただけに脚本の段階で整理してほしかった。

監督  木崎文智
出演  宮野真守/花澤香菜/櫻井孝宏/福山潤/松田健一郎/小山力也/沢城みゆき/千菅春香
ナンバー  286
オススメ度  ★★*


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