こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

家族を想うとき

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やっと見つけた仕事は、個人事業主というのは名ばかりの労働搾取。それでも妻子のためと早朝から夜までハンドルを握る。物語は、フランチャイズの宅配ドライバーになった男が家族との絆を失っていく過程を描く。失業中は子供たちの話も聞いてやれた。生活保護を受給するのはプライドが許さない。ところが自分の力で人生を立て直そうと頑張れば頑張るほど、妻や息子・娘との間に溝ができてしまう。さらにのしかかるローンの返済と制裁金。長時間拘束に日常はとげとげしくなるばかり、けれど立ち止まるわけにはいかない。全編に漂う息苦しさとやるせなさ、明るい将来をまったく想像できない張り詰めた映像は、胸を締め付けられるような切なさを伴う。トイレ用のペットボトルが不幸な未来を暗示する。

配送センターの請負業務を始めたリッキーはバンを買うために妻・アビーのクルマを売る。雇い主に文句も言わず精勤するリッキーだったが、高校生の長男・セブが暴力事件を起こし停学になる。

配送ルートやスケジュールは携帯スキャナーで厳密に管理されていて、例外的な行動は筒抜け。やがてセブの学校の校長から呼び出されても面談に間に合わず、アビーの介護ワークにも支障をきたす。もはや仲の良かった一家の心はバラバラ、だが小さな収入を得るためにリッキーは小包を運び続ける。このままでは破綻するのは明白、にもかかわらず目を背け、希望を信じている。気は短いが曲がったことや犯罪行為には絶対に手を出さないリッキーのモラルの高さ、それは彼自身が自らに課した、人間らしく生きるための最後の防壁なのだ。配達を積極的に手伝う利発な娘の笑顔がわずかな救いだった。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

その後も負のスパイラルは深度を増し、リッキーもアビーも子どもたちも限界。正しいと思ってやってきたのにいつしか家庭は崩壊している。そして初めて非を認めるリッキー。なのに、非を認めたからこそ彼は己を罰するように働こうとする。自己責任というにはあまりにも重すぎる現実は正視しているのがつらかった。

監督  ケン・ローチ
出演  クリス・ヒッチェン/デビー・ハニーウッド/リス・ストーン/ケイティ・プロクター/ロス・ブリュースター
ナンバー  298
オススメ度  ★★★*


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