ある者は押し寄せるデジタル化の波にのみこまれまいと抗っている。ある者は積極的に変化を受け入れ勇躍のチャンスにしようとする。フランスの出版業界が抱えている問題は日本とまったく同じ。“変わらぬためには変わるしかない” という言葉がリアルな重さを伴っていた。物語は、老舗出版社の敏腕編集者を軸に、彼にかかわった人々の恋愛模様をスケッチする。いまや紙に印刷されきちんと装幀された本は売り上げが激減し、安価な電子書籍でさえも行く先は不透明。デジタル化が加速される未来が来るのは間違いない。わずかに残された書籍の牙城を守ろうとする編集者は、愛人でもあるデジタル推進者と激しい議論を重ねる。他方、私小説的作品で炎上した中年作家は、文章の質にこだわっても売り方には無関心。莫大な量のセリフがパリに生きる知識人の “いま” を活写していた。
新作の売り込みに来たレオノールを軽くあしらった担当編集者のアランは、部下のロールと浮気中。一方のレオノールは前作を暴露小説と読者から批判され、必死で弁明する。
アランが勤める会社は身売りの話が持ち上がるほど売れ行きは落ち込んでいるが、アランにも焦燥感はあり打開策を模索中。情報がタダで手に入る時代、消費者は本の値段が高いと感じ、半額で手に入る電子版も不興。ところが、やっぱり紙の本のほうが好きな読者もいて書籍販売額微増のデータもある。いずれにせよ出版業界が初めて直面する未曾有の危機。それでも彼らはオンとオフはきっちり分け、不倫相手との時間はきちんと確保する。このあたり、人生で最優先させるべきものは決して仕事ではないところが粋だ。
◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆
レオノールの愛人はアランの妻・セレナ。彼らは6年にわたる仲、だがアランは感づいていない。なのに、ふたりは暴露小説がきっかけで破局、結局アランもレオノールも妻の元に戻る。2組の夫婦はともにバーベキューを囲んで談笑するが、それぞれの秘密に気づいていても大人の対応をする。いかにもフランス人っぽいカップルの形が印象的だった。
監督 オリビエ・アサイヤス
出演 ギョーム・カネ/ジュリエット・ビノシュ/バンサン・マケーニュ/ノラ・ハムザウィ/クリスタ・テレ/パスカル・グレゴリー
ナンバー 305
オススメ度 ★★★