こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

アイリッシュマン

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隙を見せた相手の顔に2発。すれ違いざまに後頭部に3発。邪魔者に銃弾をぶち込み確実にとどめを刺す。壁は血で染まり、やがて家にペンキを塗る男と呼ばれるようになる。物語は数十年にわたって暗躍した殺し屋の半生を追う。荷物を横流しするケチなトラック運転手だった。偶然の出会いが人生を変えた。戦場で人殺しには慣れている。それでも家族を愛する気持ちは人一倍強く、妻子にはやさしい。そんな男が命じられるままに暗殺を重ねていく姿は、一度踏み入れたギャングの世界からは死ぬまで足を洗えないと訴える。彼が娘の目の前で商店主をぶちのめして以後、一生彼女と溝が埋まらない展開は、普通の人々の暴力に対する嫌悪感を象徴する。父親の正体を知ってしまった彼女の苦悩がリアルに再現されていた。

エンストを直してもらったのきっかけにラッセルの知己を得たフランクは彼の片腕となる。その後、全米トラック運転手組合を仕切り政治にも巨大な影響力を持つジミーの用心棒兼お目付け役に任じられる。

普段は世話好きで人の好さそうなラッセルだが、嘘やごまかしは許さない。勝手に請け負った仕事がトラブルになりかけた時も助けてもらい、フランクはラッセルに対する忠誠心を固めていく。欲を出さないが命令には文句を言わずきちんとやりとげる。ジミーの下で働いるときも、フランクはラッセルの言葉が最重要。ラッセルを演じたジョー・ペシの経験豊富かつ圧倒的な表現力が、裏社会を生き抜いてきた男の哀しみを体現していた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

政治家との暗闘、服役、組合への復帰など、精力的に動き回るジミーにフランクは常に付き添う。だが、己を曲げない傲慢な性格ゆえ、ジミーは少しずつラッセルにとって目の上の瘤になっていく。家族より長い時間を共に過ごしたジミーに、フランクは自身の表彰式のプレゼンターを頼んだりもするが、もうラッセルの決意は固まっている。ジミーにもためらいなく引き金を引くフランクに、リーダーに権限が集中している組織で生き残るための処世術が凝縮されていた。

監督  マーティン・スコセッシ
出演  ロバート・デ・ニーロ/アル・パチーノ/レイ・ロマーノ/ジョー・ペシ/アンナ・パキン/ハーヴェイ・カイテル/ゲイリー・バサラバ
ナンバー  306
オススメ度  ★★★*


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