こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

プロジェクト・グーテンベルク 贋札王

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紙幣の細かな模様から肖像画の線まで絵筆で模写し、原版を彫る。透かしの入った紙、凹版印刷機、角度によって見える色が変わるインクといった町の商店では売っていない材料は特殊なルートを辿り、手に入れるためには時に殺人も厭わない。偽札の製造工程を細部まで再現したシークエンスはリアリティと迫力満点、思わず見入ってしまった。物語は、贋札作りに命を懸けた男の数奇な半生を追う。名前は知られていても姿は見せないボスについて語るはずが、いつしか男の身の上話になっている。彼を尋問している刑事はディテール豊かなエピソードに半信半疑で耳を傾ける。巧みに事実を織り込んだ彼の言葉は、すべてが作り話のようでもありすべてが真実のようでもある。決して幸福になれない運命を突き放したようなタッチで描いた映像は、正に香港ノワールの王道を突き進んでいた。

タイで逮捕され、香港に移送されてきたレイは、ホー警部補の取り調べを受ける。ホーは保釈の条件として、贋札団のボスでレイの師匠でもある “画家” の正体をレイから聞き出そうとする。

創造性のないアーティストだったレイは正確な模写力と指先の器用さを買われ “画家” にスカウトされる。恋人のユンと別れ、贋札団に入ったレイは才能を開花させ、苦心惨憺の末仲間と共に完璧な100米ドル札の製造に成功する。カリスマ性を持つ “画家” は、その後の抗争では武装ゲリラを相手に二丁拳銃で応戦したりと超人的な強さを見せ、レイの反抗を許さない。レイは救出した人質の女と関係を結んだりもするが、ユンのことは忘れられないでいる。そのあたり、一度黒社会に足を踏み入れた者は二度と平穏な暮らしには戻れないと訴える。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

とはいっても、これらはみなレイの供述。ホーがつかんでいるネタと一致する部分もあるが、証拠・証人もなく裏取りはできない。本当に “画家” は実在するのか、伝説が先走りしているだけなのか。取り調べの冒頭でレイが “画家” を極度に恐れるシーンが “カイザー・ソゼ” 的展開を予測させた。

監督  フェリックス・チョン
出演  チョウ・ユンファ/アーロン・クォック/チャン・チンチュー/リウ・カイチー/キャサリン・チャウ/ジョイス・フォン/デビッド・ワン
ナンバー  293
オススメ度  ★★★


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