こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ラストレター

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一文字一文字心を込めて便箋にペンを走らせる。封筒に入れて投かんした後は、相手からの返事が待ち遠しく、配達人のバイクの音が気になって仕方がない。SNSと比べると恐ろしく手間暇がかかる。だからこそそこにしたためられた言葉は相手の胸の奥まで届く。物語は、自死した姉になりすまして高校時代の知人と文通していた女が、様々な人を巻き込んで姉への思いを紡いでいく過程を描く。偽った相手は姉の元恋人で自分の初恋の男だった。歳月は人を変えても感づかれている。やがて姉のひとり娘も文通に加わると、彼女が一番輝いていた高校時代が鮮やかによみがえる。瑞々しい感覚で再現された映像は青春の美しさと残酷さを活写し、かけがえのない時間はいつまでも脳裏に生きていると訴える。

亡姉・美咲の代わりに同窓会に出席した裕里は、乙坂に声をかけられ連絡先を交換するがスマホを壊してしまう。美咲のふりをして乙坂に手紙を送るが、乙坂は美咲と裕里の実家宛に返事を書く。

乙坂からの手紙は美咲の娘・鮎美が開封、彼女もまた乙坂に返信する。筆跡の違いに気づいたのか乙坂は真相を確かめるために仙台に来るが、そこで美咲の死を知る。このあたり、友人にも弔ってもらえなかった美咲がいかに不幸な人生を耐えていたかを暗示する。乙坂にとって美咲は、未練を綴った小説まで上梓するほどの女。裕里と思い出を話すうちに生き返る美咲は未来を約束されたヒロインのように美しく輝いている。“昨日のこと以上に覚えている” 乙坂にとって、美咲の笑顔は永遠の宝物。誰かを好きになるという感情は、時の流れがより純化してくれることを象徴していた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

その後、乙坂は美咲を死に追いやった男を訪ね、自らの女々しい感傷を指摘される。もはや美咲の空白は埋まらない、それでも高校時代の彼女は忘れられない。恋人として過ごした過去は決して色あせない。人は記憶を美化して真実を乗り越えると乙坂の背中は語っていた。ただ、ライティングが甘く登場人物の表情が見づらいのは残念だった。

監督  岩井俊二
出演  松たか子/広瀬すず/庵野秀明/森七菜/豊川悦司/中山美穂/神木隆之介/福山雅治
ナンバー  11
オススメ度  ★★*


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