誰かが嘘をついている。いや、誰もが嘘をついている。まるきりの嘘でなくても、己に都合のいいように事実を捻じ曲げたり、大げさに表現したり、意図的に隠したり。それは違う自分を認めさせたいからなのか、目の前の現実から逃避したいからなのか。物語は、人気青春ドラマのスターといじめられっ子少年の文通を通じて、真実とは何かを問いかける。仕事は順調なのに私生活の不調に苦しむ俳優は情緒が定まらない。少年は転校先の小学校になじめず母との暮らしも破綻しかけている。彼らは唯一手紙の中だけで本心を明かし、いつしか顔も知らないのに秘密を共有する親友同士になっている。だが、彼らのことを語っている人物もまた虚実皮膜の間を生きる職業についている。そんな彼らの姿は、虚栄心が人間を饒舌にすると訴える。
ジョンに書いたファンレターに返事をもらったルパートは、母には黙っている。ジョンは便せんに様々な悩みを綴り、ルパートも母親との葛藤や学校での出来事をジョンに打ち明ける。
ジョンは同性恋人や母親との人間関係に疲れている。ルパートは暴力を伴ういやがらせを受けている。2人は、お互いに近況を報告しあいつつ励まし合っていたのだろう。赤裸々な思いを込めた直筆文字の数々は、追い詰められているのに親しい人に理解されない孤独と苦悩が浮き彫りにされていく。特にルパートが学校のみならず母親からもスポイルされる過程は切ない。ところが、一方で理屈っぽく弁が立つ彼が、虚言を弄して快感を覚えているような感じもするのだ。
◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆
映画は、成人となり俳優兼作家となったルパートが、新作本プロモーションのインタビュー中に内容について話す構成になっている。ジャーナリストは当然ルパートの自分語りに疑義を挟む。警察沙汰になりマスコミが大騒ぎした事件は記録が残っているかもしれないが、それ以外は手紙の真偽を始めウラが取れないエピソードばかり。すべてはルパートの創作なのかもしれない。そもそもこれは映画という壮大な虚構なのだから。。。
監督 グザビエ・ドラン
出演 キット・ハリントン/ナタリー・ポートマン/スーザン・サランドン/ジェイコブ・トレンブレイ/キャシー・ベイツ/タンディ・ニュートン/ ベン・シュネッツァー/マイケル・ガンボン
ナンバー 54
オススメ度 ★★★