こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

シェイクスピアの庭

f:id:otello:20200318151428j:plain

遺したかったのは財産なんかじゃない。生涯をかけて磨き上げてきた文学的才能こそ、受け継いでほしかった。物語は、晩年のシェイクスピアにスポットを当て、若き日に息子を失った彼の苦悩を浮き彫りにする。20数年ぶりに戻ってきた故郷では、妻も娘たちも家族とは呼べなくなっているほどよそよそしい。しかも教育を受けられなかった彼女たちは読み書きができない。喜怒哀楽を追求する作品群で演劇界を生き抜いてきた彼にとって、語るべき夢も持たない彼女たちとは価値観が合わず物足りない。ところが、身内としてのみならず生身の人間として接するうちに、その責任は自分が負うものと感じ始める。フランドル絵画のような重厚な画作りはシェイクスピアの心理を投影し、喪ったものやもう取り戻せないものへの後悔と追想を象徴していた。

グローブ座焼失を機に筆を折ったウィルはロンドンを離れストラッドフォードに帰る。妻・アンと次女のジュディスとの暮らしを再開するうちに、17年前に早逝した息子・ハムネットを悼む庭を造りだす。

女性の権利が非常に弱く、ウィルが死ぬとアンも2人の娘たちも相続権は弱い。それゆえ男児を強く望んでいたのに、ハムネットはもういない。アンは疫病が原因と言うが、ウィルはその言葉を疑い死因の調査に乗り出す。アンやジュディスにとってはもう片付いたはずの過去、今さら掘り返しても悲しみがぶり返すだけ。だが、ウィルは教会の記録を調べ、当時を知る人々から聞き取りをし、なぜハムネットが命を落としたのか、その謎の薄皮を1枚ずつはがしていく。その間、アンやジュディスとの関係にも変化が訪れるが、妻子をほったらかしにしていた男はそう簡単には “父” や “夫” にはなれない。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

そしてジュディスが明かしたハムネットの秘密。人生なんか所詮は思い通りにはならず、運命に弄ばれるのが世の常と、自身が創作した悲劇のごとき真実にたどり着くウィル。それでも真実を直視することでお互いを許し新たな一歩を踏み出す姿は希望に満ちていた。

監督  ケネス・ブラナー
出演  ケネス・ブラナー/ジュディ・デンチ/イアン・マッケラン/キャスリン・ワイルダー/リディア・ウィルソン/ハドリー・フレイザー/ジャック・コルグレイブ・ハースト
ナンバー  56
オススメ度  ★★★


↓公式サイト↓
http://hark3.com/allistrue/