こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

人間の時間

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銃を持つ者が権力を握り、弱者はただ死を待つしかない。正論を吐く者は疎んじられ、沈黙を守る者だけが賢者。物語は、異次元に迷い込んだクルーズ船で起きるサバイバルを描く。セックス、ドラッグ、賭博、喧嘩、集団レイプetc. 出港したとたんに無法地帯と化した船上。いち早く権力者をかぎ分けたチンピラたちは私兵となって船内の掌握に乗り出す。乗客たちは抗議の声を上げるが、船員たちは知らんふり。この航行に終わりが見えず、食料備蓄がわずかだと気づいたとき、権力者は強権を発動、従わない者は強制的に排除していく。そこでむき出しになる人間の性癖。もはや理性は通じない、追い込まれた人々がそれぞれの欲望に駆られて平常心を失っていく過程はリアル、厳しい生存競争にさらされた21世紀の韓国社会を強烈に皮肉っていた。

退役軍艦を改造した客船は、国会議員親子、ヤクザとその子分、若者グループ、娼婦、詐欺師、日本人新婚夫婦などを乗せて出港する。ほどなく議員の特別待遇が問題になるが、ヤクザが黙らせる。

ヤクザと政治家、娼婦に夢中の管理者、モラルが欠如した若者。現代ソウルの澱を凝縮したような空間で、日本人青年は抗議の声を上げ不正を糾そうとする。慰安婦・徴用工・竹島問題などで、日本政府が史料をもとにどれほど論理的に史実を説いても、感情的かつ乱暴な拒絶反応しか見せない韓国人という構図が、この作品にも濃厚に投影されていた。日本人青年はヤクザに殺され、妻がヤクザと議員と議員の息子にレイプされるシーンは、日本には何を言ってもといいいう反日種族主義者の主張を連想させる一方、無言の老人は真実を理解していても韓国内では口にできない息苦しさを象徴していた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

やがて、殺し合い・人肉食が始まる。レイプされた日本人妻は妊娠するがその子を産み育てると決意、新世界のイブとなる。ところが、無法者の血を引く彼女の息子は成長すると本性を現す。産み育ててもらった恩を仇で返そうとするエピローグは、近年の日韓関係を見ているようだった。

監督  キム・ギドク
出演  藤井美菜/チャン・グンソク/アン・ソンギ/イ・ソンジェ/リュ・スンボム/ソン・ギユン/オダギリ ジョー/イ・ソンジュ
ナンバー  62
オススメ度  ★★★


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