こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

世界でいちばん貧しい大統領 愛と闘争の男、ホセ・ムヒカ

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米国大統領との面談でもローマ教皇との謁見でもノーネクタイ、愛車はクラシカルなビートル、小さなアパートに妻と愛犬、農場のトラクターも自分で運転する。およそ国家の指導者とは思えない質素な暮らしを彼は実践する。カメラは、国民のために自己犠牲を厭わなかった大統領の公私に同行、彼がいかにして権力の座に就いたかを紐解いていく。元々は左翼ゲリラだった。銀行強盗や富裕層の誘拐を繰り返して資金を得るなど、武装闘争にも身を投じた。政治犯として長期間獄中で過ごした。それでも資本主義がもたらす搾取の構造に異を唱え続け、労働者のために政治家を志した。大統領に選ばれても少しも偉ぶらず、気軽に市民との写真撮影に応じ、時に批判的な商店主とつかみ合いのケンカをしたりする。そんな大衆的な人柄が非常に魅力的だった。

ユーゴスラビアエミール・クストリッツァ監督はウルグアイの大統領・ムヒカに密着取材を行う。クストリッツァの質問に、ムヒカは常に笑顔を絶やさず人を食ったような答えを返す。

2010年3月大統領に就任したムヒカは、先進国との経済格差について演説し、行き過ぎた自由主義経済に警鐘を鳴らす。大統領公邸には住まず、収入もほとんど寄付し生活は庶民のレベルと変わらない。シークレットサービスもついてはいるが、街中で有権者と触れ合うときもほとんど警護らしい警護はしない。彼自身、対人テロにかかわってきたのに、暗殺等の危険を感じないのだろうか。それとも、絶大な人気で政敵はいないことを誇るとともにウルグアイの治安は万全と言いたいのか。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

オリバー・ストーンキューバカストロ議長を対象にした「コマンダンテ」という映画があったが、このムヒカもカストロ同様、物質的な欲望は一切なく名誉を求めている風でもない。ただただ人民のために尽くす姿勢を貫いている。21世紀になってもいまだにこんな政治家はいる。国全体が貧しいからこそできる政策ではあるのだが、経済的成長よりも大切なものがあると彼の笑顔は教えてくれる。

監督  エミール・クストリッツァ
出演  ホセ・ムヒカ/ルシア・トポランスキー/エレウテリオ・フェルナンデス=ウイドブロ/マウリシオ・ロセンコフ/エミール・クストリッツァ
ナンバー  68
オススメ度  ★★*


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