こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ルース・エドガー

f:id:otello:20200612084849j:plain

母は、うちの息子に限って絶対にありえないと信じたかった。父は、状況を冷静に分析し息子にも秘密があるのを理解しようとした。先生は、優等生の型に彼をはめようとして思わず心の闇を知ってしまった。物語は、文武に秀で人望も厚い高校生が大人の求める “完璧な生徒” を演じ続けることに疲れ、徐々に正体を現していく過程を描く。アフリカ難民でありながら白人夫婦の養子として迎えられた。物質的にも愛情にも恵まれて育ち、両親の期待に応えようと努力を怠らなかった。だからこそ感じる、偽りの人生への不満と不安。人種問題、リベラルの偽善、いいひとと思われたいがために己を抑制しなければならない息苦しさ。ドラッグ中毒の女だけが欲望に対して正直に生きている、そんな皮肉が複雑で繊細な人間の真実を象徴していた。

学園のヒーロー・ルースは過激思想と受け取れるレポートで教師のハリエットを驚かせる。さらに花火の不法所持が発覚、ハリエットは養母のエイミーを呼び出して事情を聴きだそうとする。

養父のピーターは実子と離れて暮らすストレスから、ルースとの信頼関係は万全ではない。それゆえ外面の良いルースを客観的に見て、または自らの過去を参照してこの年代の少年が何を考えているかを予測している。そしてルースは、大人たちからどう見られているかをきちんと計算しながらふるまい、時に反抗期を装いながらも計画通りに周囲を落とし込んでいく。少しづつ、彼と距離ができていく。このままでは破滅してしまうのではないかと気が気でならない。エイミーやピーターに芽生える血のつながりのない息子への不快な胸騒ぎ。ハリエットが覚える恐怖心。ルースが正論を吐くほど不気味に見える演出は、ホラー映画のようだった。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

その後も黒人男子やアジア系女子が起こした問題にルースが噛んでいたりと、彼の本性が小出しにされる。価値観が多様化し相対化した現代、“正しさ” とは誰にとってのものか? “理想” 本当に美しいのか? と問いかけるルースの瞳が印象的だった。

監督  ジュリアス・オナー
出演  ナオミ・ワッツ/オクタビア・スペンサー/ケルビン・ハリソン・Jr./ティム・ロス
ナンバー  81
オススメ度  ★★★


↓公式サイト↓
http://luce-edgar.com/