こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

今宵、212号室で

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キャリアと結婚を両立し、子供を作らずに自由な恋愛を楽しんできた。だが、夫を深く傷つけたと気づいた時、彼女は己の人生を顧みる。後悔しているわけではない。でも、もしかしたら別の選択をしていれば違った「今」があったはず。物語は、浮気が発覚して夫の元にいづらくなった女が、自らを見つめなおす過程で、封印していた過去と仮定の現在に導かれ、真実にたどり着くまでを描く。そこで明らかになっていくのは彼女の男遍歴と、夫の初恋。本当はだれを愛していたのだろう。だれに愛されていたのだろう。ホテルの部屋に集った人々はみな20年以上前の姿に若返っているのに、自分は変わらないまま。どんな過去も受け入れ、その積み重ねである現在を大切にすることで未来は開けていくとこの作品は訴える。

大学講師のマリアは学生のつまみ食いを繰り返してきたが、夫のリシャールにバレてしまう。不機嫌になったリシャールを残してマリアはアパートを飛び出し、対面のホテルにチェックインする。

間男からのメッセージをリシャールに見られ、ごまかしがきかなくなったマリアは開き直る。マリアはリシャールに決して謝罪の言葉は口にしない。むしろ、ぜいたくな不満を並べて原因はリシャールにあると言わんばかり。ところが、ホテルの部屋に現れた若いころのリシャールとはすぐに仲直りしてセックスする。結局、彼女にとっての男の価値は「若さ」なのだ。一方、十代のリシャールが恋したのは10歳以上も年上のピアノ講師・イレーヌ。リシャールは年齢を重ねた女に魅力を感じる。現在のリシャールにとってマリアは程よく成熟した理想の女なのに、マリアにとって現在のリシャールは色あせたオッサンにすぎない。夫婦なのに異性の好みがかみ合わない彼らのやりとりが、エスプリの効いたユーモアに昇華されていた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

イレーヌによって、出会う前のリシャールの恋を知るマリア。お互いを理解し、現在を否定しない。それが夫婦のみならず良好な人間関係を続けていく秘訣だと彼らの愛は教えてくれる。

監督  クリストフ・オノレ
出演  キアラ・マストロヤンニ/ヴァンサン・ラコスト /カミーユ・コッタン/バンジャマン・ビオレ/キャロル・ブーケ
ナンバー  90
オススメ度  ★★★


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