こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

悪の偶像

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真実さえ隠し通せばあとは何とかごまかせる。真実にあえて目を背けて見たい物だけを見る。己の真実に気づいた者には死んでもらう。三者三様の「真実」は複雑にねじ曲がり絡み合い、彼らの手を血に染めていく。物語は、息子の起こした過失致死事件をもみ消そうとする政治家が被害者の父とかかわるうちに、悪意の底なし沼に引きずりこまれていく姿を描く。不幸にあった人間を哀しみ悼むよりも、みな今まで必死で築いてきた日常を守ろうとする。やがて他人の命を奪ってでも保身を図る彼らのエゴは暴走を始め、醜く加速する。息をのむ緊張感の中で予想外の方向に展開する彼らの未来はまったく予断を許さない。加えて、圧倒的な映像の力がさらなるプレッシャーを見る者に与える。何より、ヒロインを演じたチョン・ウヒのミステリアスな存在感が強烈だ。

息のある被害者を見殺しにした息子の罪状をひき逃げに偽装したミョンフェは、被害者の父・ジュンシクから “息子の嫁が消えた” と知らされる。目撃者でもあるその嫁・リョナは不法滞在者だった。

ミョンフェとジュンシクは別々にリョナを追うが、彼女の評判は芳しくない。それでも、ミョンファは口止めのため、ジュンシクは妊婦でもあるリョナを保護するために全力で彼女の消息を追う。そして現れたリョナ。その間、あらゆるショットが何らかの伏線のごとく意味深で、リョナの過去が謎に拍車をかける。そんな彼らは闇の奥で現在地を見失い、出口を見出せず行き当たりばったりに歩を進めているかのよう。混沌と混乱の中で生き残るためには何をすべきかを熟慮する間もなく行動する登場人物に、人間の強欲と愚かさが凝縮されていた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

ただ、導入部のジュンシクの知的障害を持つ息子の性欲処理話や、そもそも発端であるミョンフェの息子の交通事故はいつの間にかテーマから外れてしまい、足元が見えない濃霧の中で迷子になったような消化不良感は否めない。その “すぐ先すら見通せない不安” がミョンフェやジュンシクを襲った感覚だとしても。。。

監督  イ・スジン
出演  ハン・ソッキュ/ソル・ギョング/チョン・ウヒ/ユ・スンモク/チョ・ビョンギュ
ナンバー  96
オススメ度  ★★*


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