前科がある。子供もいる。手に職はない。コネもない。それでも絶対にあきらめない。物語は、仮出所したばかりの若い女がプロの歌手として有名になろうと奮闘する姿を描く。育児は自分の母に任せっきり。バイト先では勝手に酒を飲み雇い主にカネをせびる。出禁になったクラブでは暴力沙汰。およそ社会のルールや人間関係に無頓着なヒロインはADHDを疑ってしまうほど行動に一貫性がない。さらに恩を仇で返すようなことをしでかしても非を詫びず、すぐに気持ちを切り替えてしまう。映画は、「シングルマザーは思いのままに生きてはいけないか」と問いかけるが、これほどまでに共感ポイントの乏しいバカ母ぶりを見せられると応援する気も失せる。十代の少女ならいざ知らず、少なくとも彼女は周囲への感謝を学ぶべきである。
スコットランドで暮らしながらも米国のカントリーソングを愛するローズは、スザンナの豪邸で掃除婦として働き始める。偶然ローズの歌を耳にしたスザンナは彼女の歌唱力を絶賛、ネットでの公開を勧める。
ネットPRがロンドンの人気DJとの面会に結びつき、スザンナに交通費やこづかいまで提供してもらうローズ。一等車の無料飲食にはしゃぎ、知り合った二等車の客に振舞うなど卑しい性根丸出しだ。帰郷後、スザンナにさらなる提案をされ、またとないチャンスを与えられたローズは、子供たちの面倒を見てくれる知人を頼りながら練習に励む。このあたり、保育園を探し回る日本のワーキングマザーの苦労と重なる部分があるが、みな協力的。ローズは本番に向けて準備を進める。
◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆
ところが、今度こそと思わせておいて、またトラブルがローズを襲う。だが、ローズはここでもきちんと向き合おうとせず、無責任に投げ出した上に、被害者ぶる。にもかかわらず、彼女の日常に小言ばかり言っていた母親が態度を一変させるのだ。どこまでも大人の自覚がないローズに対し、周りはなぜか優しい。ある意味、こんなダメ人間でも強く願えば夢は叶うと勘違いさせてくれる稀有な作品だった。
監督 トム・ハーパー
出演 ジェシー・バックリー/ソフィー・オコネドー/ジュリー・ウォルターズ
ナンバー 98
オススメ度 ★★