こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

MOTHER マザー

f:id:otello:20200708095934j:plain

すりむいて血だらけになった膝小僧を舐めてくれた。ひとりぼっちの放課後、プールへ連れて行ってくれた。お父さんは逃げ出してしまった。この世界ではお母さんだけが頼り。物語は恐ろしく怠惰で自己チューな女に育てられた少年の心の変遷を描く。身持ちが悪く男をアパートに連れ込む。カネ遣いが荒く生活保護はすぐに使い切り身内に借金を重ねている。育児放棄して何日も家を空ける。両親や妹から絶縁されても悪びれない。ひたすら目先の快楽を求め自堕落を繰り返すバカ母の死んだ魚のような目は、世間に対する強い恨みを象徴していた。不快なエピソードの連続はやがてため息を息苦しさに変え、少年の運命を追うのが耐えられないほどつらくなる。なぜ彼はここまで “生まれてきた罪” を背負わなければならなかったのだろうか。

母子家庭の周平は、母・秋子にパシリのようにこき使われる毎日。ある日、秋子はゲーセンで知り合った元ホストの遼と家出するが、周平はおとなしくアパートで秋子の帰りを待っている。

資金が尽きると戻ってくる秋子と遼。周平をだしにして市役所職員からカネを脅し取ろうとするが失敗、3人は逃避行に出る。その間、周平は邪魔者にされながらも秋子に縋り付いている。秋子も時々周平に優しさを見せ、彼の思考をコントロールしている。他の人間から愛された経験のない周平には秋子の言うことがすべて。周平は秋子の理不尽な言動に疑問を持たない。たまに頭をなでてくれる、それだけで周平は秋子を絶対的に信頼してしまうのだ。こんな女に洗脳されている周平が哀れでたまらない。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

成長した修平はフリースクールに通い始める。ところが、やっと自分で考えられるようになった周平の足を秋子は引っ張る。秋子の態度と己の置かれた状況が異常だと少しは気づいている。それでも秋子への忠誠心は揺るがない。もはや他人がうかがい知れない母子の絆、救いのない結末が胸に重くのしかかる。ただ、秋子を演じた長澤まさみには肉体からもっとリアルな役作りをしてほしかった。

監督  大森立嗣
出演  長澤まさみ/阿部サダヲ/郡司翔/奥平大兼/夏帆/皆川猿時/仲野太賀/木野花/土村芳/浅田芭路
ナンバー  102
オススメ度  ★★


↓公式サイト↓
https://mother2020.jp/